著者 : 早田貞夫
おいとは、地元の深川今川町で髪結い床を開くことになった。以前は華やかな花街でお里師匠の下で働いていたが、急病で亡くなったお里から、弟子たちと共にそれぞれの店を持つ夢を託された。おいとは周囲の支援を受けながら、不安を抱えつつも、自身の店を立ち上げた。徐々にお客が訪れるようになり、地元の好みを理解しながら、髪結いの「技」を磨いていく。特に、初めて髪を結う弟子のお恵を指導しながら、おいとは自らの技術も向上させていく。お客の反応を見ながら、流行を取り入れつつ、地元ならではの髪形を確立していくことが求められていた。数ヶ月が経つと、店も繁盛し、特に年末には多くの客が訪れるようになった。おいとは新しい技術を弟子たちに教えていく中で、自己の成長も感じる。幼い娘の誘拐、仇を求めて江戸にやってきた若侍への淡い恋心、弟子の出奔、最愛の肉親の死……様々な出来事に翻弄されながらもおいとは、弟子たちを一人前の髪結いに育てることを使命とし、時代の流れに合わせた新しい技術を磨くことを誓う。髪結いの仕事は、彼女の人生そのものであり、客のために美しい髪を結うことが髪結いを生業とするおいとの喜びなのだ。未来を見据えながら、さらなる成長を目指し、髪結いとしての道を歩んでいく。 前口上(前作のあらすじ)/第一章 「髪結い床」おいと/第二章 勾引(かどわかし)/第三章 敵仇(かたき)/第四章 深川えにし/第五章 川井リク/第六章 灯籠(とうろう)びん
スウェーデン人の父と日本人の母の間に産まれたさやは、弟の孝一が医学部に入学したため、訳あって帰国した父に代わり、孝一の学費や仕送りのため、昼はデパートで夜は銀座のバーでホステスとして昼夜働いていた。一方の孝一はそんな母と姉の苦労を知り、学業優先の生活を送っていた。そんな時、同じ大学のゆきと出会う。彼女に好意を抱いたが先の事情もあり、学業とバイトの空き時間にしか付き合うことができなかった。そんな一家をコロナが襲った。度重なる自粛要請により昼夜の仕事も苦境に立たされていた。美しいさやに言い寄る男達の中でも年の離れた榊原に魅かれたのは、会えぬ父への憧憬からか?不倫関係であることに恐れを抱きながらも逢瀬を重ねるうちに榊原の娘が孝一の交際相手であることを知り、衝撃を受ける……。懸命に生きようとするさやを阻むように立ちふさがる壁、彼女は新たな人生を掴みとることができるのか。 第一章 ラブゲーム/第二章 プラトニックラブ/第三章 コロナ/第四章 虚飾の愛/第五章 未知への歩み
お里は、髪結いの技に魅了され、自らも髪結いを志す。二人の師匠に導かれ、技を磨いていく。頼る人もいない不幸な生い立ちのお里は髪結いとして独り立ちするために努力を重ねていく。そして彼女を慕う弟子を預かることになる。自分を慕ってくれる弟子達の為に生きる事も自分の人生と決意を新たにする。お里の腕を信頼する常連もついてきて、順風満帆に見えたが、働きづめのお里の体に異変が表れる……。「私も先の事は何があるかわからない。お前達も技を磨いて、いずれ自分のお店を出してくれれば、これ以上の願いはないよ。これからは自分の力で生きていくんだよ。私には身寄りはないけれど、店にいる三人が私の娘だと思っている。私は幸せだよ」。恋も知らず、人並みの女の暮らしなど考える暇さえなく、髪結いになる為にしゃにむに生きた一人の女の生涯を、弟子達の人生模様も織り込んで描く時代小説。 第一章 見習い/第二章 技は精進/第三章 髪は粋で艶やかに/第四章 旅立ち
愛の諸相を綴る歌集『愛への誘い』を刊行し、自らの歌詞提供で、愛への想い、ときめき、せつなさを唄うCDを世に問うてきた著者が、時代小説というジャンルに挑戦した意欲作。表題作「天の川」ほか、計5編の短編を収録。