著者 : 木村政則
恐怖はいつの間にか、もうそこに。 1930年代、ワイマール文化が咲き誇るベルリン。語り手ウィリアムはアーサー・ノリスと知り合った。立派な身なりをした教養人で貿易業をしているという。ノリスを介しウィリアムは癖のある面々と出会う。ノリスは贅沢な乱痴気生活をしては困窮して姿を消し、次に現われたときには大金を手にしている。彼はまた、多くのベルリン市民と同じように政治にも関心を見せた。ある時、ウィリアムは彼に代わり、取引先に知り合いの男爵を引き合わせるよう頼まれる。だが実は、ノリスの取引先とはさる情報機関だった……。 ノリスの滑稽な言動には毎回笑わせられるが、本書は単純な喜劇に終わらず、奥深い。共産党やナチスに対する市民の熱狂が渦巻いていた当時、ベルリンに暮らしていた著者イシャウッドは、1935年に本書を発表した。ナチスによる敵対者への残虐な弾圧が広く知られる前にその危うさを描きこんだ鋭さには驚くばかり。熱狂の影で進む恐怖はいつ、どこの国でも起こりうる。いま我々もノリスを笑っていられるだろうかと背筋が寒くなる。 ナチス台頭前夜の狂乱の日々を鋭い洞察力で描く、イシャウッドの予見的傑作、新訳で登場。
作家の卵フラーは、自伝協会なる組織に雇われ、名士ぞろいの会員の自伝執筆を手伝うことになった。やがて奇妙なことに、会員たちはフラーが書いた小説の登場人物と同じ台詞を口にしだし、小説そっくりの事件が!一方、フラーは念願の小説出版の話を反故にされ、唯一の原稿も盗まれてしまう。自伝協会と出版撤回には何か関連が?フラーは原稿を無事取り返し、出版することができるのか?スパークの幻の傑作、ついに登場!
ジーン・ブロディ先生は誇り高く、ロマンティックで生徒たちの憧れの的。授業は型破りで、校長とは反りが合わない。先生のお気に入り「ブロディ隊」も学院中から特別な目で見られた。ブロディ先生は二人の男性教師と親しく、多感な年頃のブロディ隊は、先生の恋と性に興味津々、想像を逞しくする。ブロディ隊であることは誇りであり、みな先生を崇拝していた。だが、先生の指導は次第にエスカレートし…。20世紀最高の青春小説、待望の新訳決定版!
意地の悪さが痛快な、イギリスのブラックユーモアの女王が贈る、奇妙な家族の物語。映画監督のトムは、撮影中の大事故で瀕死の重傷を負った。九死に一生を得て現場に復帰するも、ままならぬことばかり。タイトルは二転三転、製作陣からは横槍が。得意なはずの女優たちの扱いにも手こずる始末。そんななか、トムの次女が失踪した。まったくかわいげのない娘ではあるが心配だ。金目当ての誘拐か、有名人の父親に反抗しての蒸発か。行方がつかめぬまま、今度はトムの知人が銃撃され…現実が見えない男とドライな女たちの滑稽な駆け引き。
上流階級の令夫人であるコニーは、戦争で下半身不随となった夫の世話をしながら、生きる喜びのない日々を送っていた。そんなとき、屋敷の森番メラーズに心奪われ、逢瀬を重ねることになるが…。地位や立場を超えた愛に希望を見つけようとする男女を描いた至高の恋愛小説。
突き抜けた意地の悪さが痛快な、イギリスのブラックユーモアの女王、秘蔵の傑作群。ミステリあり、スラップスティックあり、ロマンティックな恋愛ありの、多彩な味わいで贈る日本オリジナル短篇集。本邦初訳多数。