著者 : 水沢竜樹
見ず知らずの夜鷹を庇い、朝右衛門は下段に構えた。抜き放った刀身は月光を吸い、刃紋は青々と怪しい陰を映す。世に知られた大業物、千子村正。首斬り役人こと公儀御試御用役、将軍の佩刀を吟味するはずの山田家当主が、徳川に仇なす妖刀を佩びている…。労咳を病み、死界へ片足を入れた朝右衛門を待ち受ける敵は、鬼か蛇か?夜陰に響く山田流居合抜き、裂帛の気合。新次元の時代小説、ここにあり。
国土は千々に分裂し、「律令(法律)」は失われ、悪鬼や化生の跳梁を押さえる道士の呪禁も効をなくした、奇しき乱世の物語。屈強な若武者から、か弱い少女に変成させられた「半神仙」の遍歴譚-。強硬な軍事国家「北漠」の中枢部で、現の範疇をこえた、邪悪な事件が起ころうとしている…。人頭蛇身の妖異な母、九連玄女が手操る運命の糸に引き寄せられ、シャーフは「北漠」の首都へおもむく。そして、軍人と魔女の集団がくり広げている権力闘争に巻き込まれる。血風が渦巻く争い直中には、迷宮に封じられた太古の邪神、やみくもに「世の秩序」を呪い、滅亡の「混沌」を欲する蚩尤がいる。幾多の人命を糧として、蚩尤は今にもよみがえろうとしている。はたしてシャーフは、蚩尤の復活を阻止することができるのだろうか。
はなやかに匂う大輪のボタンがしおれるように、三百年続いた「帝国」の寿命がつきた後の中華世界。国土は千々に分裂し、「律令(法律)」は失われ、悪鬼や化生の跳梁を押さえる道士の禁呪も効をなくした、何でもござれの妖しい時代の物語-。新興国家「迂漢」に反旗をひるがえす革命軍の青年首領、乱凌王は、妖異な母、九連玄女の戒めを受け、か弱い少女に変成させられる。そして、運命の糸がもつれるままに、迂漢の後宮におもむく。そこは、黄泉へとつながる怪異な世界だった。命の理はくずれ、生と死の境界が溶解した、トワイライトゾーンそのものだった。
オオカミ判官こと検非違使の少尉・大神友紀は、官位は低いが上には媚びず、噛み倒すまで苛烈に犯罪者を追いつめる平安京の凄腕警察官だ。日照りに水害、疫病の流行、腐敗しきった貴族たちのせいで乱れに乱れた都で多発する凶悪犯罪の捜査に明け暮れている。そんなある日、友紀は不可解な事件に遭遇する。水銀商人の丹生弘之の屋敷が何者かに襲撃され、丹生夫妻をはじめとする十九名が虐殺されたのだ。しかも、絞殺された一人娘の由子の女陰には「丹塗りの矢」が突き刺さっていた。いったいなぜ。
ろうそくの炎が、戸口の脱衣場と方丈の湯殿を照らし出した。室内は、窓は一つもない。また天井は、太い格子で封じてあった。「本当に、ここで殺されたのだろうか…?」業平は夏雄から手燭を受け取り、簀子に倒れた温子の全裸の体を凝視した。「惜しい…」素直な言葉が、胸の内から浮き上がってきた。長い黒髪に、男心を引きつける、あでやかな容姿。まぶたを閉じた青白い顔には、苦悶の痕跡が、ありあり残っていた。