著者 : 河治和香
絵師歌川国芳の弟子たちと二人の娘の物語 明治六(一八七三)年、歌川国芳の十三回忌の施主はただ一人の遺族で〈一勇斎芳女〉と名乗る国芳の次女。だが直前に行方知れずになったりして、どこかつかみ所のない女だ。 追善書画会に顔を揃えた落合芳幾、月岡芳年、河鍋暁斎、歌川芳藤、そして三遊亭圓朝などの弟子たちは、それぞれ新しい時代の生き方を懸命に模索していた。 そして、彼らの心の中には、いつも師匠の国芳がいる。中でも暁斎は、仮名垣魯文と絵新聞を始めると意気盛んだ。のちに日本の漫画雑誌の嚆矢となるこの雑誌は、その名も『日本地(ニッポンチ)』。 結局、弟子たちの生きざまを見届けたのは昭和まで生きたという芳女(お芳)だった。彼女も絵を描いているが、名を残した作品は今のところ三枚続きの錦絵があるだけだ。主に春画や刺青の下絵、皮絵などを描いていたらしい。彼女が最後まで守っていた国芳の遺品とは? そして国芳に終生愛されながら早世した長女の登鯉が、最後に選んだ人生の選択とは? 自身も日露戦争時に『日ポン地』なる雑誌を出していた新聞記者の鶯亭金升は、お芳から話を聞き出していくうちに、思いもかけない〈国芳の孫〉の存在を知る。 【編集担当からのおすすめ情報】 著者の「国芳一門浮世絵草紙」シリーズ(全五巻)は、幕末までの国芳と登鯉、弟子たちの物語でしたが、本書は明治以降の国芳とお芳、弟子たちの物語になっています。 二〇一八年刊行『がいなもん 松浦武四郎一代』で中山義秀文学賞と舟橋聖一文学賞を受賞した著者の受賞第一作になります。
“北海道の名付け親”を描いた決定版小説! 明治16年。齢60を過ぎても矍鑠としている松浦武四郎は、絵師の河鍋暁斎の家にやって来ては、暁際の娘の豊に昔語りを始めるのだったーー。 武四郎は、文化15年に伊勢国、今の三重県松阪に生まれた。早くから外の世界に興味を持ち、16歳で家出する。その後は、蝦夷地をはじめ日本全国を歩いた冒険家として、また“北海道の名付け親”として知られる。 蝦夷地は6回も訪れ、アイヌと親しく交わり、9800(!)ものアイヌの地名を記した地図を作り、和人による搾取の実態を暴いて公にしたため、命を狙われた。そして、〈北海道〉は最初の提案では、〈北加伊道〉だったという。そこにはアイヌの人々に対して籠められた武四郎の思いがあった。蝦夷地通として、吉田松陰や坂本龍馬にも相談に乗っていた。 ただ、武四郎の凄さはこれだけではない。 古銭をはじめとして一流の蒐集家であり、古希の記念に富士登山をしたり、葬儀の一部始終を記した遺言状を作ったり、一畳敷の茶室を自分の棺にしようとしたり、〈終活〉にも達人ぶりを見せていた。 武四郎老人が自らの生涯を振り返るという形式で、「傑物にして奇人」であった全貌に迫る伝記小説。 【編集担当からのおすすめ情報】 今年(2018年)、生誕200周年事業が三重県松阪市で行われ、北海道150年記念事業のなかでも、キーパーソンとして北海道のホームページでも詳しく紹介されています。涙と笑いのエピソードが盛り込まれ、しんみりと心に響く長編小説です。
あなたの知らない若冲をお見せしましょう。 若冲没後百年を経た明治37年、セントルイス万博に突如〈若冲の間〉というパビリオンが出現する。この時〈Jakuchu〉の名を世界に広めたのは誰だったのか?京の図案家神坂雪佳は、若冲の末裔という芸者から、〈若冲の妹〉と呼ばれた美しい女性の話を聞く。 宝暦13(1763)年、京都錦の青物問屋〈枡源〉に、一人の少女がやってきた。主の若冲が飼う鶏や、珍しい鳥、美しい毒草などの世話をするために。その名は美以。体からは不思議な芳香が漂っていた。若冲はその匂いに、かつての異国の女の面影を重ね合わながらも美以を自分の弟に与えてしまう。若冲を慕う美以は、以後〈若冲の妹〉として思いを秘めたまま生きていくことになる。 『動植綵絵』の完成間際に錦市場を揺るがす事件が起こり、その弟が謎の死を遂げる。彼は本当は若冲の何だったのだろうか。さらに天明の大火による被災……だが、若冲が本来の絵師として蘇生するのはそれからだ。そして、いつも傍らには〈妹〉の姿があった。 心の中の〈奇〉を描かずにはいられなかった絵師、若冲。時空を超え魅了し続けるその素顔と秘密に、江戸と明治の二つの時代軸で迫った渾身の書き下ろし小説。
浅草の老舗「駒形どぜう」を舞台に、幕末・明治の歴史の渦に翻弄されつつも、江戸っ子の意地と持ち前の明るさで店を守りぬく主人“助七”と、店に集う人びとの人生模様を描く。感涙必至の傑作歴史時代小説!
遠山の金さんと国芳は、恋のライバルだった!? 黒船来航、団十郎(だんじゅうろう)の謎の自殺と揺れる世の中で、江戸っ子浮世絵師国(くに)芳(よし)は吉原でトロロ事件を巻き起こしたりしながらも、機転とユーモアで話題作を次々と生みだしてゆく。 娘の登鯉(とり)は、歌舞伎役者の坂東しうかに刺青(ほりもの)をつけて言い寄られたり、新場の小安とは、素直になれなくてもどかしかったり。 高野長英の娘との思いがけない再会、芸者や花魁の幼馴染(おさななじ)みのじたばた悩んでいる様子には心も揺れる。 そして謎の夜鷹の出現で明かされる登鯉の出生の秘密。 そんな中で、南町奉行所が焼け、遠山の金さんが倒れた! いよいよ佳境の国芳と登鯉をめぐる浮世模様、第四弾!
<鬼振袖(おにふりそで)>とは薹(とう)の立った娘の振袖姿のこと。浮世絵師国芳を父に持つ侠風(きゃんふう)な美少女登鯉にも、いつの間にか甘やかな娘時代は過ぎてゆく。初恋の男の凄惨な自死、遠島になった最愛の男との思いがけない再会とその恋の行方、しがらみに縛られて素直になれない若親分への淡い想い……。 一方、相変わらずの即席頓智(そくせきとんち)で発禁覚悟の諷刺画を描きまくって世間の喝采を浴びていた国芳は、遠山が奉行を勤める南町奉行所隠密廻りによって、要注意人物として行状を密かに探索されることに……。昔なじみの金さんがなぜ? 『侠風むすめ』『あだ惚れ』が絶賛された、シリーズ第3弾!
〈あだ惚れ〉とは、むなしい恋のこと。登鯉の幼なじみの芸者ちょん太が、亡くなった花魁・髑髏太夫の男に恋心を抱く(「裾風」)。13歳の時に天狗にさらわれ戻ってきたという、国芳の女弟子芳玉。その天狗が現れたときの、芳玉の気持ち(「馬埒」)。国芳と北斎とのたった一度の邂逅(「畸人」)。夫婦にと薦められた武士をめぐる登鯉の、心の動き(「桜褪」)。高野長英の脱獄で見せた、遠山の金さんの心意気(「侠気」)。注目のシリーズ第2弾!
前作『笹色の紅』で評論家の絶賛を浴びた新鋭作家の、ほのぼのおかしくて、ちょっとせつない書き下ろしシリーズ第1作。 天保の改革で、贅沢なものが次々と禁止になるさなか、見事な戯画で大人気を博した歌川国芳。ついには国芳も奉行所に呼び出され、顔見知りらしかった遠山の金さんと全面対決へ。さて、その顛末はいかなることに!? 国芳と妙ちきりんな弟子たちとが織りなす浮世模様を、国芳の娘の絵師・登鯉の目から格調高く描く。
浅草ヒョウタン池の名物占い師あびる尊者とは幼なじみ。患者の中には、成島柳北(将軍侍講・明治のジャーナリスト)、安田善次郎(安田銀行・安田生命創業者)、古川阪次郎(鉄道院副総裁)などの英傑もいるのに、情人は塩飽生まれオランダ帰りの腕っぷしのいい水夫…意気でまろめて浮気でこねて、鍼師渡世、江戸っ子おしゃあの幕末明治一代記。
激動の幕末から明治、日本の夜明けを切り開いた〈咸臨丸〉使節団に選ばれた二人の青年士官。時節に明と暗を分かつ二人のはざまに揺れる女心。 韮山代官江川太郎左衛門配下の俊鋭たちが、海に陸に日本の近代化をおしすすめる。そのエネルギーに翻弄されながらも、男たちの碇となる時代の女を描く。第2回小学館文庫小説賞受賞作。