著者 : 浮穴みみ
ゴールド・ラッシュに翻弄された人間の悲哀「ウタ・ヌプリ」(『時代小説ザ・ベスト2021』収録作)。新天地・樺太への玄関口が、静かに見守る親子の情愛「稚内港北防波堤」。戦争に躍らされた炭鉱の末路と、ささやかな希望「小さい予言者」(表題作)など、全五編。
新時代、明治を迎えた函館。かつて洋船造りの名匠であった続豊治は、いまや一介の仏壇師としてひっそり暮らしていた。そんな豊治のもとを、若き船大工が訪れる。船談義を交わすうちに、豊治の胸が再び奮い立つ/「鳳凰の船」。函館港湾改良工事監督の廣井勇は、弁天台場の解体工事を躊躇していた。旧幕時代の英知を結集して造られた建造物の破壊に、痛みにも似た悲哀を感じとるのだった/「彷徨える砦」。北海道の地で、時代の狭間に生きる人々の機微を見事に掬いとった五編。第7回歴史時代作家クラブ賞受賞作。
了潤が主命により張り込んでいた男が、一心不乱に書き上げた手記には「秘めおくべし」の表書きが…。手記を奪おうとする二人の侍や毒矢を用いて彼らを襲う正体不明の隠密。さらに、町奉行所同心の変死体が発見されて…。謎を呼ぶ男の手記に誘われるように、了潤たち忍び組は蝦夷地へと旅立つ。
箱館にて洋式帆船造りの名匠と謳われた船大工の続豊治。だがある不運から、船大工の職を離れ、一介の仏壇師として二十年余りを過ごしていた。世は明治へと移り変わり、ひっそりと暮らす豊治のもとを伊豆の船匠・上田寅吉が訪ねる。寅吉との対話により、齢七十を過ぎたその胸に、船造りにかける熱い想いが再燃する。-『鳳凰の船』江戸の残映が色濃い明治初期の函館を舞台に、人々の心情を細やかに描きあげた五編。
伊賀の隠れ里から江戸へ出て、正体を隠し町医者となった上忍・笹川了潤。一見完璧なこの美男の難点(?)はただ一つ、「三度の飯より死者が好き」-。怪事件に挑み、謎の蘭学者の影を追い、見えない「敵」と相まみえるまでの、大江戸ふしぎ事件帖。
独り身上等!結婚は初恋のあの人とする。ああ胸がいっぱいで、まんじゅう食べる手がとまらない…7歳の時に命を救ってくれた“光る君”に恋焦がれ、いまや23歳の“片想い小町”おまきーだったが、近頃すてきな男(年下の医者見習いや絵師志望の優男)が次々目の前に。だめいけない、あたしは“光る君”だけと決めてるの、ああ、でも、どうなってしまうの!?…迷走する恋模様5篇による“江戸大恋愛”連作長篇。
火付けで家も家族も失った瀬戸物屋の娘・おるん。さらに視力までも奪われる。絶望の淵から救ってくれたのは、許婚のいる男だった。道ならぬ恋に苦しむおるんは、一体の仏像に祈りをこめる。恋仏様、わたしはあの方がほしいのですー。恋仏から聞こえる声は「救い」なのか、それとも「呪い」なのか。謎に彩られた恋愛時代小説。
三保の松原に舞い降りた天女の妙耶は、羽衣を盗賊に奪われてしまう。その賊に父親と許嫁を殺されて敵討ちを誓った菓子職人の太一と出会い、ともに盗賊の行方を追う。そんな日々の中で妙耶は市井に交わり、身内ゆえの情や、よすがなき女の哀しみ、職人がもつ矜持など、人間の心のありように触れてゆく。しだいに妙耶の胸にも、ある想いが兆してきて…。哀歓に満ちた連作時代小説。
江戸日本橋で御茶漬屋「夢見鳥」を営む女主人・お蝶。道理の通らないことには声を上げ(時には手も上げ)、困っている者には助けを惜しまない。旨い茶漬や料理が評判の店を切り盛りしながら、おせっかいもいつのまにか生業に。周りの者たちは「こらしめ屋お蝶」と呼んで慕っている。そんなお蝶の亭主・伊三郎は「御役目」とだけ言い残し、一年前に姿を消した。時々届く花だけが無事の知らせ。いとしい人の帰りを待ちわびながら、今日もお蝶は世話焼きに駆けまわるー。