著者 : 渡辺優
好きだけど、触れあうことはできない。 そんな私は異端者なのだろうか。 主人公の志川は、新卒で就職した不動産会社を辞め、現在、SMの女王様をデリバリーするお店の電話番をしている。友達には「そんな職業は辞めたら?」と眉をひそめられたが、女王様の中でも美織さんという最高に素敵な人に出会い、そこそこ幸せに暮らしていた。 ある日、あこがれの美織さんと初めてごはんを食べに行く約束をして舞い上がるものの、当日にドタキャン。そのまま音信不通になってしまう。彼女の常連のお客さんなどにこっそり連絡を取り行方を探るうちに、どうも自分の知っている美織さんとは違う面ばかりが見えてきて……。 過去、志川が不動産会社を辞めた理由は、あこがれの男性社員・星先輩と付き合う寸前に、先輩が自分に求めている性的なことが一切無理だと気づいたからだった。好きだったのに。付き合えないと正直に言っただけで、志川は同僚に悪女扱いをされ、そのまま会社にもいづらくなり、退社することになってしまったのだ。 私はアセクシャルなのだろうか? 「ない」ことを証明するのは、悪魔の証明だ。もしかしたら、まだ見ぬピンクのひつじに会えるかもしれないのに……。なんでも性的なことや恋愛に結びつける世の中に馴染めない主人公の戸惑いを通じて、現代社会を描く問題作。 アセクシャルの自身に戸惑い、彷徨い、清爽と一歩を踏み出すーー。 小説すばる新人賞受賞から10年。物語はしたたかに進化する。 【著者プロフィール】 渡辺優(わたなべ・ゆう) 1987年宮城県生まれ。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。他の著作に『自由なサメと人間たちの夢』『アイドル 地下にうごめく星』『クラゲ・アイランドの夜明け』『アヤとあや』『カラスは言った』『私雨邸の殺人に関する各人の視点』『月蝕島の信者たち』などがある。
後藤は大学サークルの女友達・金子とネットで活動する新興宗教BFHを立ち上げ、大バズりした。礼拝施設を建設するためのクラファンツアーを実施し、岩手の無人島・月蝕島に重課金信者を集める。上陸翌日、信者のYouTuberが首なし死体となって殺され、その後も次々と信者が殺されていく。犯人はいったい誰なのか? 船は3日後まで来ない。極限状態で信じるべき神の存在とは? そして最後は、誰もーー。『私雨邸の殺人に関する各人の視点』で話題となった探偵不在のクローズドサークル・ミステリー、再び!
嵐の私雨邸に取り残された11人の男女。資産家のオーナーは密室で刺殺され、世にも珍しい〈探偵不在〉のクローズド・サークルが始まる。館に集ったのは怪しい人物ばかり。いったい誰が犯人を当てるのか。各人の視点からなされる推理の先に、思わぬ悲劇が待っている。
誰かの“特別”でありたいすべての人へ 画家である父のモデルをしている、小学5年生の亜耶は、常に自らの美意識と神秘性に特別なものを感じていた。そんな彼女は相棒の彩といつも行動を共にしていた。歳を重ねるにつれ、次第に自分に宿る神秘性が損なわれていっていると焦りを感じるようになる亜耶。11歳の誕生日を迎えた当日、その感覚はより一層強くなっていく。学校に大勢いるただの凡人になり下がりたくないと、彩と共に「特別な」何かをしようと決意。いつもと少し違う日常を模索する。亜耶たちの前に、「学校にナイフを持ってきた」と騒ぐ男子が。そこに着想を得た相棒の彩が、「ナイフがほしい」と言い始め……。 渡辺優だからこそ描ける少女の心の深い闇。大人と子供の狭間で複雑に揺れる十代のリアルを鋭く紡ぎ出す! 【編集担当からのおすすめ情報】 自分に自信がない、でも、誰か一人でもいいから自分を特別だと思ってほしい……。大人でも折り合いをつけるのが難しいこの気持ちを、小学生で抱えてしまった女の子が主人公です。彼女の切実さ、そしてその先の結末をぜひ見届けてください。
俺は出会ってしまった、理想の「エリナ」にーー。ゲームオタクの大学生・日野は、偶然訪れたサバゲーサークルの新歓で、中学時代に熱中していたゲームのヒロイン・エリナにそっくりな宮城絵茉(エマ)に恋をした。二度告白するも振られ、今後は彼女を遠く見守ることを決意するが、そんな折彼女に害をなすストーカー犯が現れる。はじめはSNSに彼女の悪口を書き込むだけだったが、次第にサークルの部室に盗撮写真をばらまいたりと行動をエスカレートさせる犯人に怒っていた日野は、彼女の涙を見てついに決意する。俺が絶対に犯人を見付けて懲らしめてやるーー。調査のため部室に監視カメラを仕掛け、犯人と思しき男のいる大学に潜入したりと、次第に暴走していく日野はサークルで孤立するが、ついに犯人を発見。その正体は意外なものでーー。
クラゲが好きだったあの子は、どうして死んだんだろう? 殺人、傷害、交通事故、違法薬物、違法労働、虐待、自殺者がゼロの海上コロニーーー通称《楽園》。 その七つのゼロをはじめて「自殺」で破った少女・ミサキ。 彼女の死に疑問を抱いた僕は、彼女の行動を探りはじめる。そこには、七日前に現れた新種のクラゲが関係していた? 気鋭作家・渡辺優の描く、新世界。
「平穏な生活のために、姉を殺すことにしました」 三月生まれの倉石麻友と、四月生まれの姉・凜。 ふたりは生まれの近い年子のため、同学年として同じ高校に入学した。高校二年生になった春、麻友は姉を殺す計画を立てる。姉は誰もが振り返るような美少女だが、実は意地悪で残酷。幼いころからいじめなどの問題行動を繰り返していた。 ずっと「毒姉」との決別を夢想しては敗れてきた妹の、試行錯誤の行方は? そして、妹自身が抱え続ける罪とはーー。 思い込みから解き放たれ、自由へと向かう物語。 【著者略歴】 渡辺 優(わたなべ・ゆう) 1987年宮城県生まれ。大学卒業後、仕事のかたわら小説を執筆。2015年に「ラメルノエリキサ」で第28回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』、『アイドル 地下にうごめく星』がある。
「ひとりで行きなよ」「いやなの、ねぇ条介お願い、ついてきて」 高校生の僕は幼馴染のアンから、恋人と別れるところを見ていてほしいと頼まれる。 バイトを休んで渋々ながら彼女についていった僕が目にしたのはーー。(『ポケット』加藤シゲアキ) 朝起きてぼうっと生きていたらいつの間にか時間が過ぎ去っている。仕事から帰宅すると、毎日違う知らない友達が家にいる。 そんなある日、一人の友達だけが何度も家に来ることに気がついてーー。(『コンピレーション』住野よる) 誰に何を言われようと行きたくない場所もあれば、なんとなく気持ちがのらない朝だってある。 ふとしたきっかけでサボってしまうかもしれないし、人生を変えるような決意で回れ右をすることもあるかもしれない。 ひとはいつでも「行きたくない」気持ちを抱えている。 僕たちのそんな所在なさをそっと掬い上げる、刹那のきらめきを切り取った物語。
“さて、私は死にたい。心の底から死にたい”死に憧れ、リストカットを繰り返す女が病院で遂に決断。(「ラスト・デイ」)冴えない男が事故で手を切断。新型の義手で力を持った男は、悪者を倒す英雄に憧れ、夜の街に。すると、集団リンチの現場に遭遇し!?(「ロボット・アーム」)自堕落なキャバ嬢は、自分を変えるために憧れのサメを飼う。(「サメの話」)一行目から魅了される毒気と物語センスが炸裂する短編集。
地方都市でライブ活動をする地下アイドルたち。その魅力に惹かれ、無謀にもアイドルのプロデュースに挑戦する40代会社員の夏美。はかない輝きを追いかけ、自らの居場所を探す人々の姿を描く、連作短編小説。
女子高校生・りなの信条は「やられたら、やり返す」。その彼女が夜道で何者かに背中を切りつけられる。りなは復讐を果たすため、犯人捜しをするが……。第28回小説すばる新人賞受賞作。(解説/池上冬樹)