著者 : 白石一文
草にすわる草にすわる
「生きていたってしょうがないよ」。大企業を辞めた洪治は、最低五年間は何もすまいと誓い、無為な日々を過ごしている。ある日彼は、一年近く付き合う彼女から昔の不幸な出来事を聞かされる。死ぬことに決めた二人は、睡眠薬を飲む。絶望。その果てに彼が見たのは…(表題作)。なぜ人間は生まれ、どこに行くのか。「覚醒の物語」二編と初期に別名義で発表した一編を収録。
すぐそばの彼方すぐそばの彼方
次期首相の本命と目される大物代議士を父にもつ柴田龍彦。彼は、四年前に起こした不祥事の結果、精神に失調をきたし、父の秘書を務めながらも、日々の生活費にさえ事欠く不遇な状況にあった。父の総裁選出馬を契機に、政界の深部に呑み込まれていく彼は、徐々に自分を取り戻し始めるが、再生の過程で人生最大の選択を迫られる…。一度きりの人生で彼が本当に求めていたものとは果して何だったのか。『一瞬の光』『不自由な心』に続く、気鋭の傑作長編。
不自由な心不自由な心
大手企業の総務部に勤務する江川一郎は、妹からある日、夫が同僚の女性と不倫を続け、滅多に家に帰らなかったことを告げられる。その夫とは、江川が紹介した同じ会社の後輩社員だった。怒りに捉えられた江川だったが、彼自身もかつては結婚後に複数の女性と関係を持ち、そのひとつが原因で妻は今も大きな障害を背負い続けていた…。(「不自由な心」)人は何のために人を愛するのか?その愛とは?幸福とは?死とは何なのか?透徹した視線で人間存在の根源を凝視め、緊密な文体を駆使してリアルかつ独自の物語世界を構築した、話題の著者のデビュー第二作、会心の作品集。