著者 : 目取真俊
ヤマトゥでの出稼ぎ先で、主人公は偶然、沖縄戦のさなかにスパイ容疑で父を斬殺した元日本軍部隊長を見つける。何事もなかったように幸福に暮らすかに見えるこの老人に主人公がとった行動とは(「神ウナギ」)。護郷隊に入り米軍支配下にある村内の偵察を命じられた少年は、母から得た「米軍への協力者」の情報を上官に伝えるが……(「斥候」)。 戦争がもたらす傷は、何十年たっても記憶の底からよみがえり、安定を取り戻したかに見える戦後の暮らしに暗い影を差しこんでいくーー。 日本の“捨て石”にされ激しい地上戦が展開された沖縄では、住民の4人に1人が犠牲となった。 鉄の暴風、差別、間諜(スパイ)、虐殺、眼裏に焼き付いた記憶…… 戦争を生きのびた人びとの変えられてしまった人生。 芥川賞受賞から26年。現実と対峙しながら“沖縄戦”をライトモチーフに書き続ける作家の10年ぶりの短篇集。 沖縄戦の記憶をめぐる5つの物語。 〈収録作品〉 ・魂魄の道 ・露 ・神ウナギ ・闘魚(とーぃゆー) ・斥候 ・魂魄の道 ・露 ・神ウナギ ・闘魚(とーぃゆー) ・斥候
「そして全て死に果てればいい。」-- 基地の島に連なる憎しみと暴力。 それはいつか奴らに向かうだろう。 その姿を目にできれば全てが変わるという幻の虹の鳥を求め、夜の森へ疾走する二人。 鋭い鳥の声が今、オキナワの闇を引き裂くーー 救い無き現実の極限を描き衝撃を与えた傑作長篇。
米軍に占領された沖縄の小さな島で、事件は起こった。 少年は独り復讐に立ち上がるーー 悲しみ・憎悪・羞恥・罪悪感…… 戦争で刻まれた記憶が、60年の時を超えて交錯し、せめぎあい、響きあう。 読む者の魂を深く揺さぶる連作小説。 アメリカ・カナダでも英訳出版された著者の代表的長篇。
戦争で焼かれた村の海辺で、アーマン(オカヤドカリ)に棲みつかれた肉体を離れて海をみつめる男の魂に「帰れ」と訴えかける女の声は届くのか…。現在と過去が交錯する沖縄の風景から甦る戦争の記憶。表題作「魂込め」を含む6編を収録した沖縄文学の新たな担い手による、芥川賞受賞後初の短篇集。
公園の隅に置かれた男の死体をめぐる話「帰郷」、慰安婦ゴゼイと徴兵を拒否した昭正の切ない愛に生者と死者の声がかさなる「群蝶の木」、日常生活を反転させる不安をえがく「剥離」「署名」など、『魂込め』で川端賞・木山賞を受賞した著者があらたに到達した四つの小世界。
徳正の右足が突然冬瓜のように膨れ始め、親指の先から水が噴き出したのは六月半ばだった。それから夜毎、徳正のベッドを男たちの亡霊が訪れ、滴る水に口をつける。五十年前の沖縄戦で、壕に置き去りにされた兵士たちだった…。沖縄の風土から生まれた芥川賞受賞作に、「風音」「オキナワン・ブック・レヴュー」を併録。
戦争で両親を亡くした男の魂が肉体を離れて海辺をさまよう。親代わりの女は、なんとか肉体に戻るよう懸命に魂に語りかけるが…。表題作「魂込め」ほか短篇六篇を収録。戦争と沖縄、新感覚で描く、記憶をめぐる物語。芥川賞受賞後、初の作品集。