著者 : 神坂次郎
近江の豪家の下僕・茂助は、朋輩の治作が主人に殺され、そのいいなずけだったまきが主人に囲われた事を知る。茂助のなかに貧しさと富貴の徒に対する憎しみが生まれた。主家を出奔した茂助は、やがて洛外に居を定め、貧乏公家に数寄を習うとて、復讐の大勝負に出るー。極限まで虐げられた男がしっぺ返しに生涯を賭ける表題作ほか、哀しく逞しい民の姿を描く傑作時代小説集。
幽閉生活を送る九度山の屋敷を脱け出した真田幸村は、徳川家康に一矢報いようと熊野行をこころざした。家臣の四角兵衛、覚鈴を供に山谷の険しい修験道を行く幸村一行に追っ手が襲いかかる。そこに突如、幸村を護るべく立ちはだかった若者。意想外の忍びの術を駆使して自由奔放に飛び巡る自然児・猿飛佐助だ。熊野神域を舞台に繰り広げる奇想天外な痛快伝奇ロマン。
時の流れを見定めて、換えも換えたり主君が七人。槍働きの時代が終わると見るや今度は諜報活動でその名を上げる。稀有の謀将藤堂高虎を描く表題作。信長の度重なる侮辱に忍従する光秀に領地返還の上、中国攻めの援軍をせよという指令が下りた。悲運の武将を描く「明智光秀」など、歴史の奔流の中で下した男の決断を描く歴史譚5編と痛快無比、ユーモラスな歴史短編5編を併せて収録。
紀州和歌山の泣き虫の少年は、大阪に奉公に出された。火鉢屋、自転車屋での辛いながらも愉快な丁稚時代を経るうち、彼は電気の時代の到来を看破。電気工の見習いへと転身。やがて、工夫を重ね、新型ソケットを開発して独立する。明治、大正の大阪船場の賑やかな空気、昭和の動乱の産業界の激しい浮沈を背景に「経営の神様」松下幸之助の波瀾万丈、創意工夫の足跡を颯爽と描く快作。
甥にあたる将軍家光の苛烈な大名統制に憤る紀州頼宣。彼の幕府転覆の謀略が公儀に漏れた。発覚した場合のことまでを用意周到に計算した冷静な処置により、すべての罪を一身に被り、主家滅亡の危機を救った若き家老の知謀の冴えを描く表題作。織田家筆頭六将に任じられながら、あらぬ風評から謀叛人に落魄した荒木村重を描く「道糞流伝」等、歴史の陰の巨魁を描く傑作歴史譚8編。
危機管理の天才・藤堂高虎、情報分析の名人・細川藤孝、宿命のライバル・徳川吉宗と徳川宗春…そのほか、滑稽譚、冒険譚、怪異譚等々、面白さ盛り沢山の歴史短編集。
通りがかりの乞食坊主から「死相がでておる」といわれた大坂の半端やくざ鍵屋の熊太は、見立てがまさに的中しかかったのに驚嘆、心機一転観相を学ぶ。髪結に弟子入りしてあらゆる人間の顔を眼前に眺め、五体を観るために風呂屋の下働き、死者の顔を覗くためには火葬場の人足と職を転々-。「黙って坐れば、ぴたりと当たる」と言われた天下第一の観相師の痛快きわまる一代記。
幼い時から悪戯にかけては天才的。14歳で出奔。芝・増上寺で勉学に励み先輩僧たちを驚嘆させるが、学寮に女を連れ込んで破門。放浪の後京都北郊、金谷山極楽寺の住職となる。その後も愚行蛮行はとどまることなく…。その坊さん・横井金谷が晩年に筆をとった。題して『金谷道人御一代記』。-痛快無類の自叙伝をもとに、聖者と無頼の間を突っ走った天衣無縫の僧の生涯を再現する。
異常な記憶力、超人的行動力によって、南方熊楠は生存中からすでに伝説の人物だった。明治19年渡米、独学で粘菌類の採集研究を進める。中南米を放浪後、ロンドン大英博物館に勤務、革命家孫文とも親交を結ぶ。帰国後は熊野の自然のなかにあって終生在野の学者たることを貫く。おびただしい論文、随筆、書簡や日記を辿りつつ、その生涯に秘められた天才の素顔をあますところなく描く。
勉強好きの学校嫌い、少年時は「天狗」、長じては「歩くエンサイクロペディア」と称された、天才・南方熊楠。明治19年渡米、曲馬団助手として南米旅浪後、ロンドン大英博物館に勤務、数多の論文は学界に旋風をまきおこし、革命家、孫文と親交を結ぶ。破天荒のめくるめく生涯を、同郷和歌山在住の著者が愛情こめて描く!