著者 : 穂高健一
<日清・日露戦争から、太平洋戦争へ 戦争の真実に迫る高校生たちの物語> アメリカ・トルーマン大統領は、広島の原子雲の写真を見せられて、 『原子雲の下に女と子どもがいるのか、そんなばかな』と絶句した。それはーー 東京の高校二年生6人が修学旅行で広島の似島を訪れることから始まる物語。 似島は日清・日露戦争では検疫所の役割を担い、原爆投下後にはおおくの被爆者、 それも幼い子どもたちが運ばれてきた島です。 1万2000発の核兵器をつかわせないために、高校生たちは歴史クラブを立ち上げ、 明治から昭和にかけての歴史を学び、真実をひも解いていく。 日清・日露戦争はだれが仕掛けたのか? どうして太平洋戦争はすぐに終わることができなかったのか? なぜ広島に原爆が落とされたのか。 本書は、歴史書と青春小説が融合し、近現代史が小説で学ぶことのできる作品です。 プロローグ 第一章 修学旅行は旧宇品線 第二章 似島の悲しみから 第三章 広島で大惨事を見据えた男 第四章 高校生たちの淡い恋心 第五章 雨降る横須賀の戦艦三笠 第六章 日比谷で青春の歴史クラブ発足 第七章 日銀の改造紙幣から大陸侵略へ 第八章 生と死は神様が決めるの 第九章 二十分の空白から大戦争へ 第十章 初日の文化祭で戦禍を語る 第十一章 そんなばかな エピローグ
安政七(1860)年三月三日に、雪降る桜田門外で、井伊大老が暗殺された。徳川幕府の瓦解のはじまりだった。当日の江戸城内には、最高官位の和宮に献上された豪華な「五段雛人形」が飾られていた。家茂将軍の権威と威光をしめす演出であった。すぐさま極秘裏に撤去された。日比谷健次郎は武蔵国足立郡の郷士で、北辰一刀流の免許皆伝である。日比谷家、三郷の加藤家、八潮の佐藤家の三家は、徳川幕府の特命を請け負う「内密御用家」であった。徳川政権が倒れて、戊辰戦争が勃発すると、三家は隠密として臨機の処置で俊敏に活躍する。「徳川の頭脳」といわれた陸軍奉行並の松平太郎が、江戸城の無血開城前に金座・銀座から秘かに百万両を運びだす。隠密御用家は埋蔵金の隠し場所につとめた。膨大な金が旧幕府軍、新選組、奥羽越列藩の戦費となった。新政府軍が上野戦争を仕掛けてきた。戦火のなか、和宮の願いもあり日比谷健次郎たちは命をかけて、寛永寺貫主の輪王寺宮を危機一髪で救出する。奥州に逃げ延びた輪王寺宮は『東武天皇』として即位し、三月十五日『延壽』(えんじゅ)という元号を発布した。西側の幼帝と東側の東武天皇という、南北朝に似た国家分断の戦いになった。新政府軍が勝利し、元号『延壽』が歴史から消された。戊辰戦争が終わると、井伊大老の殺害で消えていた五段雛人形が、悲劇の皇女・和宮にからみ意外な展開をみせた。薩長政権が捏造した幕末史を暴く歴史小説である。