著者 : 落合教幸
素人探偵河津三郎はある闇夜、挙動不審な男を発見しあとをつける。男と同じ鞄を購入し同じ旅館に泊まった河津は、隙を見て鞄をすりかえた。気づいた男は恐怖をきたし、持っていた紙幣を燃やして、上野公園の五重塔で首を吊ってしまう。調査を始めた河津に、あの鞄の中身を売ってほしいと言う美女があらわれる。河津が断ると女は自殺しようとまでする。鞄の中身と奇妙な事件の謎とは…。ほか「恐怖王」と幻の中絶作品「悪霊」を収録。
有名な実業家の息子で法科の大学生である相川守は、妹の珠子とその家庭教師、殿村京子とレストランで食事をしていた。読唇術のできる京子は、近くの席の男たちが犯罪の打ち合わせをしていることに気づいた。彼らの話から示された空き家では、女優の春川月子が惨殺される。現場と女優の肩には赤いサソリが描かれていた。守、次の標的と狙われる珠子、老探偵三笠竜介、珠子の友人桜井品子、みな次々と殺人鬼の罠に翻弄され…。ほか「湖畔亭事件」収録。
法医学者の宗像隆一郎は、明智小五郎と並ぶ名探偵としても知られていた。復讐のために一家の命を奪うという脅迫状が届いた実業家の川手庄太郎は、宗像博士に相談する。宗像は捜査に乗り出すが、助手の木島が毒殺されてしまう。川手邸では娘たちが消息を絶ち、殺人者のさらなる魔手が迫ってきて…。現場に残された特殊な三重渦状紋の指紋、また一家に隠されてきた秘密とは?明智も加わり犯人の謎に挑んでいく。ほか「モノグラム」収録。
築地に奇妙な西洋館が建っていた。正方形の敷地を対角線で半分に割り、建物も中央のエレベーターを境に分割されている。付近の人々に“三角館”と呼ばれるその屋敷を、二軒の住宅としてそれぞれの家族と暮らしているのは双子の老人蛭峰兄弟。遺言により、二人のうち長く生きた方が家督を継ぎ巨万の富を相続することになっていた。雪の日の深夜に鳴り響く銃声。警視庁の名探偵といわれる篠警部が捜査にあたるなか、第二の事件が起き…。ほか「地獄風景」収録。
初秋の塩原温泉、美貌の柳倭文子を巡り二人の男、三谷房夫と岡田道彦が毒薬を用いて決闘を行う。勝った三谷房夫は未亡人柳倭文子を手に入れ、一方で負けた岡田と思われる人物の水死体が半月後に発見される…その頃から倭文子の周囲には怪しい人物が現れるようになっていく。倭文子の六歳になる息子が何者かに誘拐され、身代金を要求する電話が入る。倭文子の恋人三谷は名探偵・明智小五郎に捜査を依頼。吸血鬼のごとき怪人の正体を、明智探偵は見破ることができるのか?
浅草歌劇全盛期に「レビューの女王」との名声を得ていた踊り子・水木蘭子。彼女は彫刻家・里見雲山の衣頼により大理石像のモデルとなり、その肉体美を再現した作品は、展示会を大いに賑わせた。その会場に、彫刻を撫でまわす謎の盲人が…彼との出会いから、蘭子の人生が狂い始める。「触覚芸術論」という持論を持つ「盲獣」と、美女蘭子の痴態の限りを尽くした日々とその末路はいかに?触覚だけの世界の愉楽とはどのようなものなのか、そして殺戮を繰り返す盲獣の目的とは?
伊勢商事社長・伊勢省吾は、宗教に入れ込む妻の友子と不仲になり、秘書の晴美と愛人関係にあった。晴美のアパートに押しかけてきた友子を、伊勢は殺してしまう。妻の死体を車のトランクに隠し、新宿のガード下の十字路でトラックに追突され、近くの交番に引き留められている間に、意識朦朧とした男が伊勢の車に入り込んでいた。酒場で喧嘩をし、頭を打った画家・相馬良介だった。走り出すと後部座席にもう一人の死体があることに気づき狼狽するが、計画を中止することもできず、車を走らせる…。
九州の大名の末裔である大牟田敏清は、妻の瑠璃子と友人の画家・川村と三人で、地獄谷と呼ばれる渓谷へ行く。敏清は断崖から落下してしまう。どれだけの時間が経過したかわからないが、石室に収められた棺に埋葬されたものの、蘇生した。出口を求めて墓穴の内部を探っていると隠された海賊の財宝を発見する。暗黒の世界に閉じ込められた恐怖は、敏清の黒髪を白髪の老人に変えてしまった。屋敷に戻ると、川村と瑠璃子が寄り添う姿を目の当たりにする。敏清は海賊の財宝を使い、復讐を開始する…。
退職判事である叔父の児玉丈太郎が長崎県にある洋館を購入することになり、「私」北川光雄はその屋敷の検分に訪れた。幕末の豪商渡海屋が建築した大きな時計塔を持つ西洋館であった。渡海屋はその時計塔に閉じこめられ、財宝とともに失踪したという伝説があった。その後に屋敷を手に入れた元奉公人のお鉄婆さんは養女によって殺害され、両者の幽霊が出るとの噂が立っていた。私はその屋敷で野末秋子という女性に出会う…
犯罪小説家の佐川春泥は、速水、綿貫などいくつもの名前を持ち、「影男」として裏の世界で動いていた。彼は人間の裏側にある秘密を探ることを好み、それを利用して、ときに大金をゆすり取っていた。そんな彼に奇妙な組織「殺人請負会社」が顧問になることを提案する。これに応じた影男は後味の悪さから同組織と距離を置く。それと前後して不思議な老人と出会い、地下空間に作られた壮大なパノラマへと案内される!