著者 : 西野喬
京人は四季折々、鴨川に遊んだ。 それは深い情愛と冷酷さを併せ持った気まぐれな美女(鴨川)とその美女に魅せられた男(京人)に似た間柄と言えるかもしれない。そう言えるのは鴨川が『神宿る川』『祓の川』『流葬の川』『物流の川』『暴れ川』であり、『下層民の終着地』『戦場』『処刑場』『民衆芸能発祥地』『行楽地』等々であるからだ。 平安時代から江戸時代まで、時の権力者と鴨河原人の関係を描きだした短編連作集。
玉川上水を作ったのは誰?定説は玉川兄弟。これに異論はない。だが兄弟だけが築造者ではない。兄弟の偉業の影に埋もれた名も無き築造者たちの姿を活写する。
家光逝去に伴い十一歳で四代将軍となった幼君家綱。家綱を支える幕閣のひとり松平信綱は幼君の名を世に知らしめようと新たな上水を府内に引く政策をうち出す。だが幕府の財政は逼迫。金蔵の扉は開きそうもない。冴えわたる信綱の知恵と弁舌でその扉を開かせることができるのか。
江戸幕府創成期の混迷した世を駆け抜けた親子の情と確執ー徳川幕府の行く末をおびやかす豊臣家を滅ぼそうと策略をめぐらす家康。その企みに巻き込まれる豪商角倉了以。了以は家康の命に心ならずも服しながら、来るべき太平の世を見据え、寂れた京の再繁栄を夢見て運河を作り、物流を盛んにしようと動き出す。為政者に頼らず私財をなげうち、命を賭して運河開削に挑む了以の前に山積する難問。了以はそれをどう乗り越えていくのか。利他に等しい了以のしたたかな晩年を描く。
秀吉から家康、京から江戸への政庁移行、京は廃れると誰もが思った。朱印船貿易で巨万の富を得た角倉了以は一族の反対を押し切って、この富を保津川の改修工事につぎ込む。京と丹波を舟運で結び物流を盛んにして京の繁栄を絶やさぬためである。江戸幕府初頭の混沌とした世上、様々な苦難を乗り越えて通舟工事に奔走する了以の奮闘を描く。