著者 : 野口武彦
文明とは、ある可能性の紛砕であり、開化とは、挫折した夢と怨みの上に咲いた花である。新時代の到来に必然はない。ありえたかもしれない未来と希望のもつれを解きほぐす、5つのネオフィクションの試みが見せる光景とは?
ひとつの時代が終わる。それだけがたしかな時に…。美しく死ねた者、なまじ生き残ってしまった者、己が才覚の扱いに悶える者…。人生のさまざまな姿が異常なまでにクッキリと浮かび上がった魔術的な時空間を描く五篇。
元禄の末期は地震に襲われ、宝永と改元され、将軍綱吉が没します。メディア、バブル経済、セックスとカネ……。この時代の諸相と現代とには、おそろしいくらいの共通性が読み取れます。本書は元禄の諸記録に分け入り、まさに終わろうとする平成と時空を往還しながら、いまなお日本人の心性の根底にあるものをあぶり出します。読み出したらやめられない六篇です。 野口武彦氏は前著『花の忠臣蔵』(講談社)でこう喝破しました。 「元禄人に目を据える。と、元禄の死者たちもひたと見返してくる。その眼差しは、同時代だからこそかえってものを見えなくする死角を突き抜けて、現代の迷路をくっきり照らし出すにちがいない」 そして元禄という時代にこだわりつづける野口氏は、本書でさらにこう述べます。 「魅力と禁断の匂いが同時にした。それはたんなる江戸時代の年号のひとつではなくて、『元禄模様』『元禄小袖』『元禄見得』といった派手やかなイメージで彩られた時間の実体である。『花の元禄』と謳われる独特の蠱惑で人をさし招く。が、その花影には暗君・悪政・物欲・暴力といった危険がひしめいている。それは人を引き寄せながら撥ねつける、生のアンビヴァレンツだった。いわば『フグは食いたし、命は惜しし』という俗諺にも似た、ちょっと後ろめたい好奇心が人心をそそるのである」 元禄の末期は地震に襲われ、宝永と改元され、将軍綱吉が没します。メディア、バブル経済、セックスとカネ……。この時代の諸相と現代とには、おそろしいくらいの共通性が読み取れます。本書は元禄の諸記録に分け入り、まさに終わろうとする平成と時空を往還しながら、いまなお日本人の心性の根底にあるものをあぶり出します。読み出したらやめられない六篇です。 二流作家 大奥のオイチョカブ カネに恨みは数々ござる 梅ヶ枝の手水鉢 お初観音経 曾根崎の女
慶応元年、第二次長州征討のため大坂に進発した徳川十四代将軍家茂のお供を任じられた仲良し御家人四人組、弥次郎・喜多八・筒なし・関兵衛は、開戦の遅れをよいことに一年以上も大坂で美食、遊郭通い、観光と遊び呆ける始末(『在京在阪中日記』)。その後、長州、鳥羽伏見、上野、日光、会津、箱館へと続く維新の戦乱に厭々従軍させられ、死の恐怖に怯えつつも持ち前のノーテンキさで行軍してゆくー。幕府滅亡を象徴する“戦意なき”幕臣たちの生態を史料と想像力で復元した傑作幕末小説。単行本『幕末不戦派軍記』所収の五編と『幕末伝説』所収の鳥羽伏見編を合本した決定版。