著者 : 風巻絃一
合戦場の死人から腹当を剥ぎ盗っていた藤吉郎は、火付け・強盗・略奪・人殺し、なんでもやることを条件に、一椀のめしにありつくと同時に、野盗蜂須賀小六の子分となった。そして数日後、蜂須賀小六の弟分で、実は父が歴とした武士で、本名を石川五右衛門宗郷という文吾と知り合った。ここから、尾張中村生まれの流れ者藤吉郎の人生は転変する。やがて織田信長の下、金柑頭の明智光秀とともに、“秀鼠”と渾名された秀吉の出世競争が続き、信長本能寺の憤死、光秀討滅を経て“天下人”となった秀吉の前に引き出されたのは、かつての盟友石川文吾すなわち盗賊五右衛門であった。釜茹の刑に処された男とは…。-“太閤”と、おのれを敬称で呼んだ男、豊臣秀吉の“型破り人生”を描く長編傑作。
京の都は数年前から慢性的な飢餓に見舞われていた。ある日、ふとしたことから施粥を受ける窮民たちが貴族の乗物に襲いかかった。そのおり、その乗物の気品高い女主の危急を救ったのは二十四、五の若武者水無瀬左京、主は八代将軍足利義政の正室富子であった。富子にはまだ男子がなかった。男子がなければ将軍の跡継ぎは他所に持っていかれる。現に、義政は去年、弟の義視を還俗させて後継者にしようと準備していた。“そなたのような剛い武士がわたしは欲しい”という富子の願いを左京は拒絶していた。この後、大乱が都を包んだ。…歳月は流れて、女将軍の権力をもってしても夢が叶えられることなく、日野富子は死んだ。“一切の罪業を障滅して極楽へ行きたし”と。-赤松牢人の勇士と称えられた水無瀬左京の目を通して描かれた日野富子の世界。
奥州藤原一族四代をテーマに描く名手風巻絃一の書下ろし本格歴史ロマンの傑作編。検非違使の志という職を捨て、京を脱出してきた神無木式部は、琵琶湖近くの鏡の宿場に泊まっていた。夜半、突然に起こった物音は、羽黒山の大天狗藤沢ノ入道一味の襲撃であったが、剣にすぐれた式部はたちまちにして入道一味を斬り倒してしまった。この事件で、式部は平泉屋敷を宰領する堀弥太郎吉次、通称金売り商人と呼ばれていた男の知遇を得た。天平二十一年、陸奥の国から黄金が出た。平泉は初代清衡以来、鎮守府将軍の三代秀衡と繁栄を続けた。源九郎義経も身を寄せ、式部と知り合うことになって…。
こんな男が日本にもいたのか…。切支丹の司祭オルガンティーノも舌を巻いた。“天下布武”の野望を抱いて、戦国の天下を震憾させた織田信長、“大うつけ”といわれるその奇矯な行ないの裏に、緻密な知略と大胆な決断、そして不敵な行動力を隠して、おのれの野望の構築を賭けて大乱戦国の世を駆け抜けた風雲児・織田信長とは一体いかなる男か。四周の強敵すべてを薙ぎ倒し、また中世的価値観のすべてをも打ち壊して新時代の出現を夢みつづけ、さらには海外への視点をも合わせ持ったこの超人的人物の全生涯を描いて、その魅力のすべてを追及するベテラン風巻絃一の書き下ろし時代長編作。
激動の幕末、京の都を震憾させた“誠”の組織を、風雲児藤堂平助を中心に据えて描く。元治元年(1864)秋中旬、下谷御徒町にある伊勢津藩32万4千石は藤堂家の江戸家老立花監物の屋敷を、家紋の「蔦」の紋付きの黒羽2重を着た若待が訪ねてきた。若待は、その名を藤堂平助といい、藤堂和泉守高猷が、側妄綾瀬に産ませた子であった。新選組の猛者平助は、隊内では“ご落胤”の渾名で通っていた素姓の正しい待であった。近藤勇に従って東帰していた平助は、「文武館」道場主の伊東甲子太郎や、その門下で円明二刀流の達人服部武雄らと会うことができた。やがて新選組に加入してきた伊東一派は?-京の隊内では、副長山南敬助と土方歳三との対立が、ことごとに表面化していった。
京の柳馬場の町医者猶崎将作宅を、ふいっと訪ねてきた風采のあやしげな若者があった。それは江戸での“黒船騒ぎ”を目撃して帰郷の途上にあった土佐の郷士坂本竜馬だった。この幕末の風雲児と、その妻となる将作の長女お竜との奇しき初対面のときであった。梅田雲浜を初めとする京の勤王家が一斉検挙され、将作とその仲間も囚われの身となり、しかも将作は遺体となっての帰宅だった。非運に陥った一家を支えてお竜は奉公に出た。そんなお竜に目をかける船宿『寺田屋』の女将お登勢との間に、いつしか竜馬をはさんでの女の葛藤が…。薩長を結んだ竜馬とお竜を媒酎したのは西郷隆盛だった。-“青春坂本竜馬”姉妹編。
故郷の土佐を出立して江戸は京橋桶町の北辰一刀流千葉貞吉道場へ入門した坂本竜馬は、いまだ19歳の夢多き青年であった。“魔羅”もでかけりゃ“夢魂”もでかい。野放図な竜馬のその人並みはずれた言動は、“ほら吹き竜馬”の異名のとおり、ことごとく道場仲間のど肝を抜く。だが、図らずも時代はこんな男の出現を必要としていた。相州捕賀の沖に異国の“黒船”がやって来たのだ!騒然たる風雲の中を、若き竜馬はゆくー。竜馬の青春を彩る女性は、千葉道場の美しい娘さな子、札差屋の女まさりお富士、そして郷里の幼なじみの妹の加尾、さらには新橋の美妓小蝶と多情多彩。-竜が天駆ける夢の中から生まれ出て、維新回天の原動力となる“天下の傑物”、でかい男の痛快青春物語。
くたびれた黒羽二重の着流しに雪駄ばき、はげた朱鞘を落とし差しにしたどこから見ても尾羽打ち枯らした浪人者は、人呼んで白柄朱膳。元高遠藩士で、その剣法は一刀微塵流。たったの一刀で、四方八方の敵を粉砕するという“あばれ剣法”であった。北町奉行遠山金四郎を友とする白柄朱膳が立ち向かう大江戸の怪事件とは…?稀代の絵師瀬川春草が呼び売りのかわら版に描いた“大江戸小町づくし28美人”が身を投げるやら斬り殺されるやら、はたまた心中やらとつぎつぎに惨事に見舞われるという奇怪な事件がひきつづいていた。つぎは御蔵小町、春草の娘(黒い水面)。-大江戸の闇に出没する怪人変化のからくりを斬る破邪の剣。白柄朱膳事件帖。