著者 : 香川由利子
若く美しく学を身につけたモロッコの青年アゼルは、職につけず、姉の稼ぎをあてに細々と暮らしていた。閉塞感漂うこの国ではもう生きられない。彼は富豪の男の愛人になり、スペインでの豊かな生活を夢見る。さらに富豪を自分の姉と偽装結婚をさせ、姉をも脱出させようとするが…。策謀をめぐらす青年、密航の果てに溺死する男たち、秘かに春を売る女たち、エビ加工工場で働く小さな少女-出てゆくことを望む者たちが絡み合う苦闘と彷徨の物語。
タリバンに統治されたアフガニスタンの首都カブールは、まさにこの世の地獄。廃墟と化した町では私刑が横行し、人心は荒廃していた。拘置所の看守アティクの心もまた荒みきっていた。仕事で神経を病み、妻は重い病に冒されている。友人は離縁を勧めるが、命の恩人である妻を棄てることは…。だがやがて、アティクは夫殺しで死刑を宣告された美しい女囚に一目惚れしてしまう。女を救おうと走りまわり、憔悴していくアティクを見て、彼の妻は驚くべき提案をするのだった。壮絶なる夫婦愛を描いた衝撃作。
連続猟奇殺人事件の謎、手掛かりを集約すべき名探偵不在という謎、ちりばめられたパズルの薀蓄の謎…。徹底して不可思議な小説構造で読者の頭脳に挑戦する、かつてない思考型サスペンス。今年度最大の異色問題作。
ゲームクリエイターのニコラは、恋人イングリッドから突然別れ話を切り出された。一目惚れして以来、彼女とその息子ラウルとは幸せに暮らしてきた。なのに、彼女は別れの理由も言ってくれない。ラウルも生意気になってきて、ニコラが語り聞かせる妖精の話を信じやしない。そんなニコラの唯一の慰めは、毎日スーパーに通うことだ。そこでは、大学進学を夢見てイラクからやって来た若い娘が、レジのアルバイトをしている。彼女は入学許可がおりず落胆していた。はじめは心の内を探り合っていた二人だが、ある日、互いが直面する現実を語り合ったことから、奇跡が起きる…。愛とユーモアのマジシャンが紡ぐ、フランス発ファンタスティックな新しい恋愛小説。
娘が妻のある中年男を愛していると知ったとき、セシルは自分の夫にも疑いの目をむけた。やがて疑いは確信に、そして現実へと変わってゆく。長い年月かけて育んできた夫婦のきずながこんなにも簡単に壊れてしまうのだろうか…。