著者 : 高木彬光
私は殺される私は殺される
“善意”から生じた悲劇は、“悪意”から生じたそれよりも、よりいっそう恐ろしいものだ。天才探偵神津恭介は、ある日、美しい婦人の訪問を受けた。愁い顔の彼女が語るのは、2年前の恐ろしい殺人事件だった。犯人はすでに死刑の宣告を受け、刑の執行される日を無実を絶叫しながら待っている。神津は女の話から真犯人を推理した。しかし、何らの証拠もない。彼は婦人に、真犯人へ“決闘”を申し込ませるーという大時代奇想天外な策をさずけたのだった…!?(「私は殺される」)-表題作のほか、伝説の女魔術師松菊斎天章が住んだという屋敷で起こった怪奇殺人事件(「鏡の部屋」)など、戦後の不安定な世相を舞台にしてくりひろげられる鬼才神津恭介の、快刀乱麻を断つ名推理のかずかず!
血ぬられた薔薇血ぬられた薔薇
一見何の関係もなさそうな2人の女が相次いで生命を奪われ、その左腕を切り取られた。1人は映画のスクリーン上で濃艶な美貌と甘い歌声をうたわれた女優吉野小夜子、もう1人はこれも凄艶な美貌の持ち主、“白蛇のお菊”の異名を持つ女スリ。いつものくせで、居酒屋でしたたかに酔ったわたし(駆け出しの探偵小説家松下研三氏)のカバンの中に、いつの間にかまぎれ込んでいたコルトの拳銃。あやめもわかぬ暗黒の中に、青白い燐光を放って浮き上がった人間の片腕。-わたしを震えあがらせたこの二つの事実から、神津恭介はみごとに犯人を推理した。残るは決め手となる証拠だけだ。(「女の手」)-ほかに表題作「血ぬられた薔薇」をはじめ6編を収録。