著者 : J・M・クッツェー
20世紀初頭の南アフリカ。異人種間の結婚や性交が禁じられていた時代。白人と褐色の肌の人々が生きる隔絶された空間で事態は推移する。石と太陽で造られた屋敷の仄暗い廊下では、昼も夜も時計が時を刻む。孤独で不美人な未婚の娘マグダ、農場を支配する厳格な父、使用人ヘンドリックと美しく幼い花嫁、不在の兄。肩の上に一気に手斧が振りあげられ、ライフル銃の薬莢が足元で音を立てる。やがて屋敷の秩序は失われ、暴力と欲望が結びつく…。ノーベル賞作家が、検閲の網をかいくぐり、植民地社会の歴史と制度への批判をこめて織りあげた幻視的長篇。新訳決定版!!!
ノビージャの街を捨て、田舎町に逃れてきたダビード、シモン、イネス、そして犬のボリバル。シモンとイネスは農園に住み込みの仕事を見つけ、ダビードとボリバルもそこに暮らす。だが、もうじき7歳になるダビードの質問攻めにシモンは辟易していた。ダビードもシモンの返答に満足せず…。ダビードは、農園のオーナーである三姉妹の勧めで、ダンスアカデミーに入学する。少年はシモンとの距離を置くために寄宿生になりたいと言い出すが…。『イエスの幼子時代』続篇。
「人間のモラル」の底を描く、余韻に富んだ最新作。欲望すること。歳をとること。人間であること。円熟期にある作家が、今どうしても伝えたいこと。ノーベル賞作家が、これまで自明とされてきた近代的な価値観の根底を問い、時にシニカルな、時にコミカルな筆致で開く新境地。英語オリジナル版に先駆け贈る、極上の7つの物語。
ヴェトナム戦争末期、プロパガンダを練るエリート青年。18世紀、南部アフリカで植民地の拡大に携わる白人の男。ふたりに取りつく妄想と狂気を、驚くべき力業で描き取る。人間心理に鋭いメスを入れ、数々の傑作を生みだしたノーベル賞作家J.M.クッツェー。そのすべては、ここからはじまる。
初老の男が5歳の少年の母親を捜している。2人に血の繋がりはなく、移民船で出会ったばかりだ。彼らが向かうのは過去を捨てた人々が暮らす街。そこでは生活が保障されるものの厳しい規則に従わねばならない。男も新たな名前と経歴を得てひとりで気ままに生きるはずだったが、少年の母親を捜し、性愛の相手を求めるうちに街の闇に踏み込んでゆくー。人と人との繋がりをアイロニカルに問う、ノーベル文学賞作家の傑作長篇。
六十代の独身男ポール・レマンは自転車の事故で片脚を失った。医師は義足を勧めるが、ポールはかたくなに拒否、アデレードの自分のフラットで要介護の暮らしを始める。かつて離婚を経験し、その後は勝手気ままに暮らしてきた。それゆえに、福祉事務所から紹介される介護士たちの年寄り扱い、子供扱いへの苛立ちは募るばかり。彼は人生に絶望しかかっていた。そんな折、ポールのもとにマリアナ・ヨキッチという介護士が送られてくる。仕事熱心で美しいマリアナに、ポールは惹かれていく。だが、彼女には夫と子どもたちが。ポールはマリアナに愛を伝えようと苦心するが、見知らぬ女性作家の出現が彼の人生をさらなる混沌へと導く。ノーベル賞作家の傑作長篇。
静かな辺境の町に、二十数年ものあいだ民政官を勤めてきた初老の男「私」がいる。暇なときには町はずれの遺跡を発掘している。そこへ首都から、帝国の「寝ずの番」を任ずる第三局のジョル大佐がやってくる。彼がもたらしたのは、夷狄(野蛮人)が攻めてくるという噂と、凄惨な拷問であった。「私」は拷問を受けて両足が捻れた夷狄の少女に魅入られ身辺に置くが、やがて「私」も夷狄と通じていると疑いをかけられ拷問に…。