小説むすび | スメル男

スメル男

スメル男

出版社

講談社

発売日

1989年4月20日 発売

彼女と一緒に犬探しに没頭した二日間、ぼくは自分の部屋へも戻らなかったかし、酒も飲まなかった。生活がいつもの単調さを失ったおかげで、アルコールの助けを借りなくても眠れたのだ。たった一晩の禁酒で、ぼくの体は見違えるように軽くなった。いつもの朝、起き抜けに胃の腑から背中にべったりと張りついている泥。その汚れた重みが、ぱさぱさに乾いて剥げ落ちたような感じだった。ところが実際にはぼくの体はひどく病んでいたのだ。本人であるぼくですら分からなかったのだが。もちろんマリノレイコも、ぼくの体の異常には気付かなかった。知っていたのは、犬だけだったのだ…。

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