猫狩り族の長
海辺で出会った彼女は、美しく饒舌で世界で誰よりもー死にたかった。猫が戯れるのを眺めていた女子大生・時椿は、断崖絶壁に立つ女性に声をかける。飛び降りようとする黒髪の美女・十郎丸は、多くのヒット曲を手がける作曲家だった。彼女は予想に反して、雄弁で自信に満ちた口調で死にたい理由を語ってのける。人生で初めて出会った才能豊かな人間が、堂々と死のうとしている事実に混乱する時椿。なんとかその日は十郎丸を翻意させ、下宿に連れて帰ることとなる。なぜか猫に嫌われる死にたい天才作曲家と、何も持たない大学生。分かりあえない二人の、分かりあえなくもあたたかい6日間が、始まった。麻枝准の生きている世界はこんなにも苦しくて、理不尽なものだったー。「泣ける」ことだけにこだわり創作してきた彼が純粋に書きたいものを初めて書いた処女文芸作品。