裏声で歌へ君が代
中年の独身画商梨田は、地下鉄の長いエスカレーターを昇っていくとき、降りてくる側に、知り合ったばかりの若い美貌の未亡人を認めて、咄嗟に逆乗りをし、彼女を伴って“台湾民主共和国”準備政府の大統領就任パーティに出席するが…。水際立った発端、スリリングな展開、最上のユーモアとエロティシズム。練達の著者が趣向の限りを尽して国家とは何かを問いかける注目の純文学巨編。
関連小説
さまざまな背景を持つ人物が「国家」を語る。陸軍幼年学校をドロップアウトした経験を持つ画商の梨田と、その友人でスーパーマーケットの経営者でありながら台湾民主共和国(台湾独立を目指す団体)の大統領・洪、洪の部下ながらアナーキストを自認する林ら、置かれた立場や政治的信条が異なる男女が、国旗や国歌、民主主義について、ときには酒を酌み交わしながら、ときには寝物語として縦横無尽に語り合う。-日本の陸軍は非合理主義にどつぷり漬かつてゐる団体で、この団体の信条とするところはナポレオンのものの考え方とまつたく対立するものではないか。あの小さなコルシカ人ならば、歩兵操典に書いてあらうが、軍人勅諭にあらうが、そんなものは旧套にすぎず死んだ文字にすぎないとして、平気で投げ捨て、すばやく現実の必要に対応するだらう。-独特の歴史的仮名遣いでつづられた、渾身の長編の前編。 2024/09/12 発売
丸谷才一が問いかける「国家とは何か?」 日本でスーパーマーケットを経営しつつ、台湾の独立を目指す団体の代表を務める洪が、突然仲間を裏切り、台湾に戻ったという。友人の画商・梨田はその理由を探ろうとするが、確たる事情はつかめない。そんななか、洪の日本人妻が、衝撃的な話をもってきて……。 「民衆が、民衆を、民衆のために統治する民主主義は、結局のところ大衆社会といふものにゆきついてしまふでせう。大衆社会とは、一言で言へば、あくどい娯楽を民衆が待ち望んでゐる社会です」 「国家といふのは無目的に存在してるものなんでせう……株式会社なら、株主の委託を受けて利益をあげるといふ目的があるでせう。しかし国家にはそんなはつきりした目的、ないんぢやないでせうか」 洪と対立する中華民国の高官、梨田の元上官、無政府主義者のスーパーマーケット店長などさまざまな背景を持つ人が「国家論」をぶつけ合う。 圧倒的な筆力で綴られた長編の完結編。 2024/10/10 発売