大使とその妻 上
世界がパンデミックに覆われた2020年、アメリカ人のケヴィンは、軽井沢・追分の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっていた。京都の宮大工の手になるその日本家屋は、南米から帰国した元外交官夫妻の住まいだったが、親しい隣人であった夫妻は、前年ふいに旅立ったあと、消息を絶ってしまっていた。能を舞い、たおやかに着物を着こなす古風で典雅な夫人・貴子。ケヴィンは彼女の数奇な半生を、「日本語」で書き残そうと決意するー。
世界がパンデミックに覆われた2020年、アメリカ人のケヴィンは、軽井沢・追分の小さな山荘から、人けのない隣家を見やっていた。京都の宮大工の手になるその日本家屋は、南米から帰国した元外交官夫妻の住まいだったが、親しい隣人であった夫妻は、前年ふいに旅立ったあと、消息を絶ってしまっていた。能を舞い、たおやかに着物を着こなす古風で典雅な夫人・貴子。ケヴィンは彼女の数奇な半生を、「日本語」で書き残そうと決意するー。