小説むすび | 目覚めない女

目覚めない女

目覚めない女

ベッドで隣に横たわる妻のめそめそした泣き声を聞きながら、ピップは怒りと苛立ちを必死に抑え、寝たふりをつづけた。なぜこの女はセックスで愛を繋ぎとめようとするのだろう。透けたネグリジェを着ても、こちらの嫌悪感を掻きたてるだけなのに。彼が心を寄せる人は別にいた。魅力的な肢体をもつ、天使のような娘。だが、妻がいるかぎり、彼はその娘の愛を知らずに終わるだろう。殺意は一瞬のうちに形をとり、鮮明な光景となって脳裡に広がった。やるならいまだ…。弁護士ヘレン・ウェストは事件の報告書に腑に落ちないものを感じた。健康な中年女性が、原因もなしにある日突然就眠中に死ぬだろうか?検死では毒物は発見されず、死体を発見した夫ピップにも不審な点はなかった。だが、ヘレンの与り知らぬところでピップは若い娘への異常な愛を募らせ、自らの欲望を満たそうとしていた。英国女流の鬼才が放つ英国推理作家協会賞受賞作。

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