帰還
東京に赴任していた英国外交官ピーター・ダーウィンは、本国へ転勤になり、帰国休暇の途中マイアミに立ち寄った。そこでクラブ歌手のヴィッキイと知り合った彼は、なりゆきで、娘の結婚式のために英国へ行く彼女とその夫を送って行くことになる。ヴィッキイの娘ベリンダの住む、チェルトナム競馬場近くの町は、偶然にも、騎手を父にもつダーウィンが幼年時代を過ごした場所だった。ベリンダは勤めている動物病院の獣医ケンと婚約していたが、ケンの周囲には暗雲がたちこめていた。優秀な獣医である彼が手術した馬が、なぜか次々と原因不明の死をとげ、病院に悪い噂がたちはじめていたのだ。さらにダーウィンらが到着して早々、病院は放火され、焼け跡から身元不明の死体まで発見された。ケンの窮地を救おうとダーウィンは調査を始めるが、やがて幼年時代のこの町での思い出がじょじょに甦り、その記憶の中に、事件の謎を解く重要な手がかりが隠されていることに気づく。
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封印された歴史、アフリカからの帰還 本作は、1974年にポルトガルで起きた「カーネション革命」直後、植民地アンゴラから本国へ帰還した少年ルイとその家族を描いた物語である。作者のドゥルセ・マリア・カルドーゾ自身もまた、アンゴラからの帰還者の一人であり、永くポルトガルでは封印されていた歴史である「植民地からの帰還者」の問題に文学的アプローチで取り組んだ話題作。 ポルトガル領アンゴラで暮らしていた白人の少年ルイとその家族の生活は、本国ポルトガルで起きた革命をきっかけに、歴史の大きなうねりに飲み込まれていく。本国に引き上げた帰還者たちは長期間のホテル暮らしを強いられ、そこにはアイデンティティや黒人差別など、さまざまなポストコロニアル的問題が浮かび上がる。1974年4月25日の革命後、アフリカから大挙して帰還した60万人のポルトガル人が「語らずにきたこと」を、ルイの目を通して赤裸々に描いた本作は大きな注目を集め、今もロングセラーとなっている。 「もうみんな行ってしまった。……僕らももうここにいるべきじゃない」 2025/12/01 発売