ラム氏のたくらみ
イギリスにある小さな村、ハーズリー。そこで小さな郵便局の局長を務めるノリス・ラムは、五十五歳にして初めて恋に落ちた。人類が初の月面着陸を成功させた夜、ラムは運命的な光景に遭遇する-長年同じ村で暮らすヴィーダが、月光のなか、半裸で踊っていたのだ。その姿を目にした瞬間、ラムは彼女に心を奪われてしまう。ヴィーダは、裕福な建築家の息子で障害のある青年を、二十年のあいだ母親のような愛情をもって世話してきた。自分の気持ちを打ち明ける術を知らないラムは、そんな心優しいヴィーダのことを、木陰からそっと見守ることしかできない。この恋をけっして無駄にはしたくない-激しい情熱に突き動かされたラムは、勇気を奮い、初めて自分の手で運命を切り開く決意をした…。中年男性の切ないまでの恋心を詩のようにうたいあげ、心に深い余韻を残す名篇。