ギッちょん
新芥川賞作家の傑作小説集!
「しんせかい」で第156回芥川賞を受賞。鮮烈なスタイルで現れた山下澄人の初期傑作集を待望の文庫化! 『ギッちょん』『コルバトントリ』二冊の単行本を一冊に。
〇収録作
・ギッちょん
四十過ぎてホームレスになった男。目の前を往き来するのは幼馴染み“ギッちょん”とひとりぼっちの父。(第147回芥川賞候補)
・水の音しかしない
毎朝同じ電車になる男が鬱陶しくて、時間をはやめてみたら、やはり男といっしょになった。適当に話を合わせているうちに「わたし」は窮地に陥る。
・トゥンブクトゥ
第一部 街でゆきかう老若男女の様々な思惑、殺意。第二部 海辺のサバイバル。
・コルバトントリ
わしは死なへん。お前も死なへんねん。誰も死なへん。生者も死者も人間も動物も永遠を往還するーー(第150回芥川賞候補)
〇小川洋子さんによる解説を収録。
「山下澄人さんの小説を読むと、語り手も登場人物たちも皆、魂だけになってしまった人々のようだ、と思う。魂というと普通、肉体の檻から解放された、純度の高い存在の源、のようなイメージがあるが、山下さんの場合は少し違う。」
「山下さんの小説に現れるのも、この“在り間”に近いものたちだと思われる。存在する、と明確に断言するだけの自信もなく、かと言って、存在しないのだな、と問われるといや、待ってくれと言いたくなる。どっちつかずの隙間、空洞、落とし穴、のような何か。ないけれどある。あるけれどない。」
「語り手たちは皆、迷ってばかりで、自信がなく、肝心なことをすぐに忘れる。生かされている世界に圧倒され、その前でちっぽけな自分を持て余している。そんな小さな人々にしか見えない真実の風景が、ここには描かれている」
関連小説
著者・山下澄人は北海道などを拠点に活動を続けてきた劇作家、演出家、兼俳優。その劇を観に通っていた編集者のすすめで書いた小説『緑のさる』(平凡社)で昨年末に野間文芸新人賞を受賞した注目の書き手です。今回の作品集の表題作「ギッちょん」は第147回芥川賞候補作にもなりました。「ギッちょん」は、ある男の一生が、時系列をシャッフルして語られます。腕白な少年時代、荒れた十代、放浪の青春時代、ホームレスになった四十代、清掃業に就き静かに死を待つ晩年の情景が次々にたちあがってきて、次第に胸がしめつけられるような心持になります。「水の音しかしない」は、サラリーマンの不条理劇のようにはじまりながら、やがて読者は大震災後の混沌とした世界に連れて行かれていることに気付きます。「トゥンブクトゥ」では、街の雑踏で交差していた老若男女さまざまな人々の思惑が、やがて暴力的なものに変容し、決着をつけるかのように、皆が海辺へと向かいます。読むたびに変貌をとげるこの作品群は、小説の新たな地平を切り拓くことになるでしょう。 2013/03/12 発売