征途(3)
通信省真岡交換所は陸路と海路の両方から押し寄せてきた蘇連軍に包囲されていた。連続する砲声と銃声。時たまそれに被さって来る魂消る響きは、敵軍の接近を告げている。自分が操縦する流星改がモシン・ナガント・ライフルの七・六二ミリ弾によって昇降装置のワイヤーを切断され墜落した藤堂守は、そこで夢魔の叫びを聞いた。孤立した日本人五四名うち八名の徴用女性にとって、祖国への帰還はもはやかなわぬ夢となったのか。守はワルサーPPKを抜き取った。彼女たちを救うには充分な弾数だった…。気鋭の傑作完結篇。
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1995年8月15日、沖縄県嘉手納宇宙港。藤堂輝男は、宇宙往還機第一号の機長席に着いた。日本は初めて自らの手で日本人を宇宙に旅立たせようとしていた。近海には海上自衛隊の大型艦、世界各国のマスコミと30万の見学者のなかに初老の提督の視線があった。藤堂進。次男の雄姿を孫娘と見送るためだったが、同時に沖縄に海に眠る父への思いをはせた…これより半世紀前、1944年10月24日、藤堂進中佐は、レイテに進撃していた。藤堂家の男たちに流れる海の防人の血。国家と家族の運命を糸に描く壮大作。 1993/03/31 発売