暗い炎(スティ-ヴの章・上)
はじめに、ほんの少し彼にやきもちを焼かせたかっただけなのに-。カリフォルニアの実業家スティーヴと電撃的な結婚をしたジニイは、夫との些細ないさかいから、思いもかけない方向に波紋が広がっていくことに激しく動揺していた。スティーヴを残し、独りパリに来てしまったのも、本当は、彼に迎えに来て欲しかったからだ。そんな女心を踏みにじるかのように、スティーヴが、イタリアの妖艶なオペラ歌手、フランチェスカと恋仲になっているなんて。お腹には彼の子がすでに宿っている。激しい気性の男、スティーヴに翻弄されるジニイだった。
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1867年、メキシコは動乱の時を迎えていた。21歳になるアメリカの上院議員の娘ジニイは、夫スティーヴに従いメキシコに攻めこむディアス将軍の軍勢に加わった。スティーヴが任務で出かけたあと、ひとり残されたジニイは、かつての父の秘書カールと再会する。彼女に思いを寄せていたカールは、ジニイにロシアの公爵サルカノフの通訳になるよう命令が下されていると伝える。スティーヴに事情も告げられないまま公爵のもとへ赴いたジニイは、そこで思いがけぬ話を聞いた。彼女は実はロシア皇帝の娘で、しかもスティーヴとの結婚は無効だと。 1989/07/01 発売
中傷に惑わされ行方もわからなかった夫、スティーヴとの突然の再会。しかし、ジニイの心にあるのは喜びにまさる後悔と怯えだった。カールからうけた辱めと暴力、そこから救ったとみせかけて、ジニイとの結婚をせまったサルカノフ公爵。今は、公爵夫人となったジニイは、責めようともしないスティーヴに、かえって深く傷つくのだった。そのあくる日、二人きりで森へ出かける。もう、愛されていないと思っていたジニイを激しく求めるスティーヴ。しかし、かれに、ふっとよぎる冷たさにジニイは愛を確信することができなかった。 1989/07/01 発売