密告者
「あの時代、私たちは誰もが恐ろしい力を持っていたーー」
名士である実父による著書への激越な批判、その父の病と交通事故での死、愛人の告発、昔馴染みの女性の証言、そして彼が密告した家族の生き残りとの時を越えた対話……。父親の隠された真の姿への探求の果てに、第二次大戦下の歴史の闇が浮かび上がる。
マリオ・バルガス=リョサが激賞するコロンビアの気鋭による、あまりにも壮大な大長篇小説!
私、どうしてもガブリエルの顔を見る気になれなかったの。ガブリエルのことを軽蔑していたの。だって、そんなことができる人だなんて考えたこともなかったから。ただいっぽうでは、ガブリエルがああしたことをやったのは当然だ、とも思っていた。当時はおそらく、どんな人でも、ガブリエルがやったことを知ったとしても別に驚かなかったと思う。ガブリエルを軽蔑する気持ちと肯定する気持ち、その両方が私の中で綯い交ぜになって、自分でももうどうしていいかわからなくなっていたの。恐ろしくてたまらなかった。なにがどう恐ろしかったのかと言われるとわからないのだけれど。(…)けっきょくのところ、密告する人なんてどこにでもいるということなのよね。戦争中であろうがなかろうが、人はいつだって、自分の置かれた状況次第では、平気で誰かを密告してしまうものなのよ。(本書より)
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故郷アルトモア山から遠く離れ、非情なテロリストとして生きるジョン・ジョー。健気に留守を守るテロリストの妻。北アイルランドに潜入した若き諜報部員ブレン。彼を教育する“師”パーカー。弱さゆえ、密告者として敵に絡め取られた男…。さまざまな人生をはらんで、IRAと英国情報機関の戦いは今日も続く。IRA暫定派の活動拠点アルトモア山では、テロ活動の失敗が相次ぎ、密告者=売国奴がいるのではとの疑いが浮上する。この地では売国奴は死を意味する。山をあげての売国奴狩り。パーカーとブレンに操られた密告者は、発覚の薄氷を踏みながら、ジョン・ジョーを故郷に呼び戻す策を弄する。英国情報機関対テロリストの対決が迫る。 1994/06/10 発売