小説むすび | 降りていこう

降りていこう

降りていこう

〈あんたの武器はあんた自身〉母さんは言った。あたしの武器はあたしだ。

奴隷の境遇に生まれた少女は、祖母から、そして母から伝えられた知識と勇気を胸に、自由を目指すーー。40歳の若さで全米図書賞を二度受賞した、アメリカ現代文学最重要の作家が新境地を開く、二度目の受賞後初の長篇小説!

 悲しみが霧雨になって降り注ぐ。スカートに指をこすりつけ、しだいに長くなってくる影のなかで地面に膝をつきながら、わが身の境遇につくづく驚かずにはいられない。この天涯孤独ぶりはどうだろう。こんなところで腰の片方には命を、もう片方には死を持ち歩いているなんて。
「どっち?」あたしは宙に向かって問いかける。「どっちを与えるべき?」夕暮れのなかを漂っていく自分の声を聞いて、少しだけ孤独がやわらぐ。
 この同じ空のどこかで、あたしのミツバチたちも飛び回っているに違いない。(…)
 この同じ空のどこかで、サフィも息を吸って吐いているに違いない。
「サフィ」あたしは尋ねる。「どっち?」(本書より)
第1章 剣と化した母さんの手
第2章 縄に至る道
第3章 一連の喪失
第4章 川は南へ
第5章 嘆きの街
第6章 身を委ねる
第7章 真っ暗闇の驚異
第8章 塩と煙の捧げ物
第9章 燃える男たち
第10章 甘い収穫
第11章 やせ細ったしみ
第12章 渡し守の女たち
第13章 ふたたび星を見た
謝辞
訳者あとがき

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