小説むすび | 月射病

月射病

月射病

《メグレ警視》シリーズの作者ジョルジュ・シムノンの未邦訳傑作長篇選集刊行! 本叢書は、作家であり、シムノン研究の第一人者でもある瀬名秀明が監修と解説を担当。日本でこれまで紹介されてこなかった“世界作家”シムノンの魅力を発見してほしい。

エキゾチックな空気がたまらない異郷小説
伯父の口利きでアフリカのリーブルヴィルに働きにやってきた育ちのよい青年ジョゼフ・ティマールは、到着して間もない朝、ホテルのオーナーの妻アデルに誘惑され、彼女の虜になってしまう。パーティーの夜に黒人のボーイが銃殺される事件が起こり、ティマールはアデルが犯人ではないかと疑うが言わずにいる。アデルの亭主も続いて感染症で亡くなり、葬儀の夜、ふたりは再び激しく愛し合う。翌朝アデルはティマールに、伯父の立場を利用しジャングルの借地権を得て一緒に事業を始めるよう仕向け、ティマールは同意するが次第に無気力に襲われ自制心を失っていく……。1930年代初頭のフランス植民地ガボンを舞台にした、キャリア最初期の野心的な作品。

パリの霧も雨も出てこない本作『月射病』は、最初のうち多くの読者の目には異色作と映るかもしれない。しかし実際にシムノンの経歴を振り返れば、本作が異色どころかシムノンという作家にとって本道の一篇であり、しかも彼が本当に[「本当に」に傍点]作家として、もっというならばひとりの人間として、大きな一歩を踏み出した直後の、彼にとって人生の方向を決めるほど重要な一篇であったことがおわかりいただけることと思う。--「解説」より

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