ヴィティコ-(第1巻)
本書は、シュティフター晩年の叙事詩的長篇小説で、さまざまな民族が神聖ローマ帝国のもとに統合され、次第に中世封建制度が確立してゆく雄大な乱世、12世紀のボヘミアとモラヴィアの地を舞台に騎手ヴィティコーが森の民とともに戦い、森の領主となり人々に尽し、居城を完成させるまでを、美しい情景描写を交えながら、淡々と、ときには静寂に充ち、ときには反復する旋律の鳴り響きとともに描いてみせる。単線的に発展するという「近代」の歴史観に背を向け、《永遠》を希求した文学作品を本邦初訳で贈る。第1巻は、人生への途上にある若者ヴィティコーが、深いボヘミアの森で少女の歌声を耳にするところから幕を開ける。その響きは、あたかも天より遣わされた天使の歌声のごとく…。