出版社 : 三修社
かつて革命の英雄であった主人公ルバショウは、絶対的な権力者「ナンバー・ワン」による粛清の標的にされ、でっち上げられた容疑で逮捕・投獄される。隣の独房の囚人と壁を叩いた音によって会話を交わし、これまでの半生を追想するうちに、革命家としての自分の行動の正当性に対する確信が揺らぎ始める。取り場べを受ける中でルバショウは、でっち上げられたグロテスクな罪を自らの意思で自白していく。
独裁政権下のルーマニアのある町。毎回10時きっかりの少佐の呼び出しに向かう路面電車の中で「私」の意識に過去の出来事が浮かび上がる。路面電車内で起こる出来事に過去と現在のエピソードが絡み合いながら、物語は進行する。「今日」の自分に出会いたくなかった「私」は新たな『ユリシーズ』を紡ぐ。歴史に翻弄される辺境のマイノリティを描き出す。
サッカーのゴールキーパーとして鳴らした男ヨーゼフ・ブロッホ。認知するさまざまな対象が、殺人事件の結果として、どのようにして次第に言語化されてゆくかー。
文学研究と映画研究の新たな地平を求めて、文学研究者がアメリカ文学を代表する作品のアダプテーションをめぐる批評実践を試みる。文学と映画それぞれのメディアの表現方法の違い、原作と映画テクストの歴史性、改変の意味や効果などを論じる。 取り上げる作品は、『白鯨』『ハックルベリー・フィンの冒険』『華麗なるギャツビー』『欲望という名の電車』『ブレードランナー』などを取り上げる。
20世紀以降のアメリカ文学の面白さを第一線の文学者が伝える、作品を中心に、作家のキャリアを包括的に捉えた作家作品論シリーズの第2作目は、トマス・ピンチョン。ピンチョンの長編、中編作品のなかで扱われる、越境的な想像力が描き出す近代化と現代の様相を読み解く。また、主流派から排除された選びに与れぬ者たちの系譜とシステムに抗う生について論じる。 序章 ピンチョン作品の軌跡に見る本書の主題 批評理論上の枠組みと研究手法 トマス・ピンチョン伝記 第1章有機性の喪失とスペクターーー『V.』における拡大する生命なき世界 街路での彷徨、有機性の喪失、ショック体験 有機体への暴力と破壊、歴史的時間の分裂、スペクター 怪異な地下世界への下降、有機性への渇望とその破壊 語りの時間と地理における分裂、植民地のスペクター的都市、相互的自己喪失 有機性を支配することーーヴィースーと絶滅の夢 植民地マルタにおける再生の試み、機械の解体 第2章国家像を揺さぶる「望まれざる外国人」--『競売ナンバー49の叫び』が示す脅威 トリステローー移民法、望まれざる外国人、崩される国家像 トリステローー相続権の喪失、非合法集団、望ましき移民との区別 望まれざる外国人に対する空想ーー虚空を生み出すこと 国家像におけるトリステロ的なものーー街路での彷徨、社会的矛盾 革命の脅威、監視、そして疑念 望まれざる外国人へのエディパの脅威、そして自ら異質な者(alien)になること 第3章異国での祖国の記憶ーー『重力の虹』における選びに与れぬ者の系譜 国家の起源と系譜ーータイローン・スロスロップのアメリカ 選びに与れぬ者の系譜と本源主義の魅惑 ロケット、神話、マンダラ 第4章異人種間の魅惑と反発ーー『メイスン&ディクスン』に見る植民地的欲望 ケープタウンにおける植民地的欲望の矛盾 女性奴隷への欲望、ロマンスと人間の商品化 アメリカの荒野と植民地的欲望、同性愛、捕囚物語の変容 第5章哀悼可能な生と哀悼不可能な生ーー『逆光』、無政府主義、戦争 被支配者による暴力ーー哀悼可能な生と哀悼不可能な生 抑圧者の暴力ーー非人間の哀悼不可能性 哀悼不可能な生ーー第一次世界大戦を中心に 黙示的ヴィジョンを受けて 第6章帰れない故郷ーー『ヴァインランド』『LAヴァイス』『ブリーディング・エッジ』 『ヴァインランド』--権利強奪、神話的土地、データ・システム 『LAヴァイス』における追い立てられた人々、失われた土地、空想された国家像 『ブリーディング・エッジ』--社会正義、ディープアーチャー、ニューヨークの街路への帰還 あとがき・資料・年譜キーワード集・文献リスト・索引
個人と集団の経験を牧歌的に混淆させ、「深い憂い」を断片的な個々の事物に刻み込めながら、独自の「歴史的な証言」を読者に追体験させる。それだけに、作品が犯す大いなる矛盾を、読者も敢えて犯さなければならない。チャウシェスク独裁政権下のマイノリティーの苦難。ノーベル文学賞受賞作家による「周辺」の文学。
快楽と孤独と倒錯。新鋭作家の話題作。二十世紀末の大都会、コミュニケーションの断絶、増幅される不安…。あなたのまわりにもきっとひそんでいる欲望の罠。タブーを省みず、大胆な筆致で描いた短編集『ひとりぼっちの欲望』『欲望のちいさな罠』から選んだ十八の短編を収録。