出版社 : 小学館
夫唱婦随に疑問を抱いてしまった女性の結末 ──現在のわたしには、狭い門と思われるものが二つあるのです。第一の門は、敏と同宿人のように暮して、わたしは絵に精進しながら、肉体の枯れるのを待つのです。第二の門は、名実ともに敏と離婚して、独りになって絵に精進しながら、新しくわが子の授かるような境遇をつくるのです。── 病院を経営する祖父から逃れるように、郷里を出て建築設計技師の原川敏と結婚した美子。画家の卵だった経験を生かし室内装飾家として夫を支える美子だが、子どもが欲しい美子と、子どもには興味がなく、自分のつくる建築物が二人の子どもだ、といわれ続けることに釈然としない気持ちが募っていた。 しかし、亡くなったと聞かされていた父の足跡を訪ねる旅に出たことで、平凡だった日常が変わりはじめる。夢に出てきた父に叱咤され、再び絵筆を持つ決心をし、何事にも中途半端だった自分を変えるべく努力を始めるのだ。果たして、美子はどちらの狭き門にたどり着くのか──。 舞台は日本だが、随所にフランスを感じさせる佳作。
日韓国際結婚の難しさを描く私小説の名篇 裕福な家庭に育ちながら、朝鮮戦争で父が殺されたり、姉が北側の軍隊に連行されたりして人生がくるってしまった韓国人女性と、新聞社の韓国特派員を務める〈私〉。「一種投げやりに不安定な心の匂い」に惹かれて、日本に帰国後も海峡を挟んで連絡を取り合っていたが、結婚する決心はついていなかった。「国のちがい、習慣のちがい、父親がどういう仕事をしていたのかはわからないがかなりぜいたくに育ったらしい彼女との生活程度のちがい──生まれてくるはずの子供の将来のこと」を考えると不安になるし、友人や家族まで反対したからだ。 ともあれ、婚姻届けを提出し、日本でふたりの生活を始めたものの、来日三、四日目には「きつい表情で黙りこんだあと、彼女の感情は不意に激しく渦巻き始めて、自分でもどこに向うのか見当のつかぬつむじ風のように荒れ出す」という激しい性格があらわになる。はたして、大波にもまれるような結婚生活の行方は──。 平林たい子賞に輝いた、私小説の名篇。
命を削り今を生きる「止観の道士」たち 時に精神は現実を凌駕するーー 織田信長が天下統一へ向け着々と歩みを進めていた元亀元年(一五七〇年)、京の街でこれまで交わることのなかった「止観の道士」たちの運命が交錯する。 「水観」の円四郎、「炎観」の平助、「月観」の桂月。 現実と幻想の狭間で揺れる自己矛盾、その道士という生き方にあえぎながらも、厳しい修行の末に彼らが得た止観の力は、やがて到来した織田家との戦いに大きな影響を与えていくーー。 歴史上一切語られることのなかった儚き者たち。 その生の輝きと熱情が、乱世の闇を鮮烈に切り裂く! 『ヒートアイランド』 『ワイルド・ソウル』 『室町無頼』に連なる 垣根ワールドのエンターテインメント最高到達点!! 「25年小説を書いてきて初めて、全てをエンタメに振り切った物語を書いた」(著者)
ネタバレ厳禁。驚愕体験の本格ミステリ! 小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて──。 【編集担当からのおすすめ情報】 『ノウイットオール あなただけが知っている』で松本清張賞を受賞し話題をさらった新鋭・森バジルさんの、衝撃体験を約束する本格ミステリが誕生しました。予想を木っ端みじんに打ち破る華麗な推理の数々がとにかく気持ちいい! 伏線もキャラの魅力も恋愛も大仕掛けもてんこ盛りの傑作ミステリを、絶対に、絶対に事前情報なしでお楽しみください。
酒からSFまで……バラエティ豊かな短篇集 [──何だね、これは? 水を呉れと云つたぢやないか。 ──あら、ソオダ水の方がいいと思つたものですから。 ソオダ水を三杯お替りしたマノ氏は、何やら日頃の気難しい顔は椅子の下に捨ててしまつたのか、たいへん上機嫌な赤い顔をして一人の女と話をしてゐた。 ──先生のお髭、素敵ね。 マノ氏は八字髭をひねくつて満更でも無い顔をした。] 酒も煙草もたしなまず、女性にも縁のないマノ氏が、酒と女性にはまっていく様をユーモラスに描いた表題作のほか、あらゆることにだらしのない元妻に脅迫される気の弱い男性が主人公の「乾杯」、飲み仲間の男性3人が、若くて楚々とした女性をめぐって争うものの、みな手玉に取られてしまう「不可侵条約」、SFチックなテイストの「女雛」「焼餅やきの幽霊」など、バラエティに富んだ10話からなる短篇集。
結末に涙する、仕掛けに満ちたひと夏の物語 ノイズに溢れたこの世界で、 「大人になる」とは一体どういうことなのだろうか。 「子どもの土地」で永遠の子どもだった「その子」は、心に曇りが生まれ、ある日飛べなくなってしまった。だから、地上に堕とされた……自らの代わりとなる子を一人、連れ去るために。 夏休みの始め、青森のボーイスカウトで、スナメリが座礁した熊本の海岸で、埼玉から繋ぐオンラインゲーム内で、悩める子どもたち3人に奇妙な出会いが訪れる。いなくなる子は、誰なのか。自由と不自由のあいだでもがく少年少女、それぞれの決意とは。 誰もが経験し、忘れてしまう、「あの頃」の怒りと光にいま向き合う。 意外なその結末にきっと涙する、仕掛けに満ちたひと夏の物語。 最後の2行に込められた意味を 理解できる「大人」でありたいと思いました。 ……青山美智子氏 人が生きる底の底から、子どもという存在を見詰めれば こんなにも不思議で美しく、残酷な物語が生まれる。 ……あさのあつこ氏 【編集担当からのおすすめ情報】 本作に顔を覗かせるのは、イギリスの名作「ピーター・パン」。 1人を「子どもの土地」へ連れ去るためにやってきた「その子」、 それぞれの出会いによって変化や成長をすることになる5人の子、 計6人の少年少女のひと夏を、 2022年に小説現代長編新人賞を受賞しデビューした新進気鋭の作家が描きます。 自分の中に閉じ込めてきた怒りや絶望、いつのまにか忘れていた煌めきや希望。 それらを怖いほど鮮やかに蘇らせてくれる1冊です。 「その子」は一体誰なのか?考えながらお楽しみください。
救いと慈愛に満ちあふれた、感涙医療小説 奈緒(40歳)はシングルマザーの看護師として涼介と寄り添い生きてきた。その涼介も高校生、進路を考える年齢に。そんな折、大きな転機が訪れる。敬愛する医師三上の誘いもあり、思い切って東京の緩和ケア病棟で働くこととなる。死を間近に見つめる毎日の中、その瞬間まで幸せに生ききり希望を持てる最期を模索し続ける奈緒。一方、涼介は強く大きい夢を抱く。それは奈緒の夢でもある。母子の夢の行方、そして三上と奈緒のこれからは・・・・・・。 緩和ケア病棟を舞台に、綿密な取材と著者自身の看護師経験に基づく圧倒的リアリティ、温かな視線で人々の生き様、死に様を丁寧に紡ぐ。懸命に生きるすべての人々に送られる慈愛のエールに癒やしの涙は必至です。 【編集担当からのおすすめ情報】 6年前他界した母は晩年情緒不安定でした。そんな母が本作の前身となる医療小説『満天のゴール』を読み終えて、穏やかな声で私に言いました。「この本を読んで、死ぬのが怖くなくなったわ。ありがとう」--「小説は人を救えるんだ」と心から実感した瞬間でした。 現役看護師として長年多くの看取りを経てきた藤岡さんが描く死は、温かく、そして尊い。本作品に貫かれている「死は決して敗北ではない。懸命に生き抜いた先のゴールとして幸せな死がある」という考え、想い。それは、この作品を読んだ誰の心にも微かな灯となると思うのです。そして、生きている「今」を希望に変えてくれる。この作品に出合えて、本当に私は幸せでした。 目次 1 朝凪 5 2 暗影 13 3 永訣 42 4 蛍火 96 5 星原 131 6 明星 159 7 秋空 180 8 涙雪 237 9 邂逅 270 10 決戦 302 11 積雪 321 12 満天 351
奥多摩湖の秘史を綴るノンフィクション小説 「一日にたった五時間しか日が当らない。僕はこの村に日蔭の村という名をつけているんです。大木の日蔭にある草が枯れて行くように小河内は発展する東京の犠牲になって枯れて行くのです。都会の日蔭になってしまうと村はもう駄目なんです」 昭和初頭、爆発的に増加する東京の水需要にこたえるべく、奥多摩の地にダムが計画された。住民たちは大局的見地に立って、立ち退きを了承したが、水没するエリアが二転三転し、そのうちに神奈川県から水利権をめぐる横やりもあって、なかなか話が進まない。 すぐに支払われるはずだった立退料も宙に浮き、養蚕などの生業を中断してしまっていた住民たちは、今日食べるものにも事欠く事態に陥っていた……。 観光名所として人気の奥多摩湖だが、その裏で当事者たちが味わったやりきれない思いを丁寧につづったノンフィクション小説。
スマホに支配された現代に通じる近未来物語 娯楽も、ニュースも、労働も、そして食事までもコンピュータシステム「イミジェックス」よって提供されている第八都市。イミジェックスから絶えずもたらされる情報に身を任せていれば、人々は幸せに人生を送ることができるーーと思わされていた。 イミジェックスによる洗脳は非常に効果的で、そこに存在しないものを“ある”と思わせたり、不都合な存在は見えないようにすることさえ可能にしていた。しかし、偶然にもイミジェックスのしがらみから逃れたラグ・サートは、コンピュータに支配される暮らしからの脱却を目指す革命団の一員と出会い、仲間に加わる決心をする。 打倒するべきはイミジェックスだけではなく、じつはその背後に“虫”の存在があった。ラグたちは限られたリソースのなかで、“虫”とイミジェックスを倒すすべを探っていくーー。 あたかもスマホに支配されてしまったかのような現代とオーバーラップする、眉村卓、渾身の長篇。
「教場」映画プロジェクト原作!最新刊! 第一話 会意のトンネル 郷村秀初は、体格に優れた14歳年上の同期、岩国禾刀に何かと助けられていた。岩国は、郷村の母の中学時代の後輩だという。 第二話 不作為の鏡 成瀬幹人は、醜形恐怖症のため、一度鏡を見てしまうと離れられなくなる。招集に遅れることも多く、連帯責任を取らされる同班の若浦と宝条から苦情を言われていた。 第三話 遺恨の経路 木下百葉は、同じ教場の真鍋辰貴と交際している。真鍋は一月前まで同期の洞口亜早紀と付き合っていた。真鍋と百葉はクリスマスに会う約束をしているが、その前に犯罪捜査のペーパーテストがある。 第四話 犯意の影法師 南郷玲司と来栖研心は「警察学校生研究発表会」の予選にT県警代表として出場することになった。全国大会に進めれば卒配後はAランクの署に配属される。 第五話 黒白の極性 細沼理仁は、パチンコに大ハマりして同期に借金までしてしまった。軍資金を吐き出した土曜、ひったくり事件に遭遇する。 第六話 金盞花の迷い 卒業式が近づき警察学校では総代争いが激化していた。追掛冬和子はそのトップを走っているが、ライバルで新聞ベタ記事マニアの戌塚に図書室へ呼び出される。 【編集担当からのおすすめ情報】 主演 木村拓哉 「教場」映画、プロジェクト始動! 脚本 君塚良一 監督 中江功 2026年、風間公親ふたたび! 刑事指導官・風間公親を急襲し、右目から光を奪った“千枚通しの男”十崎波瑠が、「風間道場」門下生の刑事達の手によって逮捕された。警察学校長の四方田は、風間の門徒である現役バリバリの刑事を月に一度「風間教場」に招き、特別講義を行ってもらうという新たなカリキュラムを提案する。
史上初、台湾侵攻!歴史小説の巨人、最新刊 国境を脅かす騎馬民族の大軍を何度も退け、明王朝を堅守し続けた名将・袁崇煥(えんすうかん)が、私欲にまみれた宦官たちの讒言によって処刑された。明朝の終わりの始まりだった。若き崇禎帝(すうていてい)は人民の困窮などには目を向けず、自らの独裁君主権を脅かされることばかりを恐れた。ほどなく、李自成(りじせい)の反乱によって明は滅亡した。 その年、20歳を迎えた青年がいた。青年は、漢土の沿海で最も恐れられた海賊の子だった。幼い頃から聡明だったその青年は科挙の生員(受験資格者)となり、南京の太学で儒学を修めた。青年の名を、鄭成功(ていせいこう)といった。 明王朝が倒れ、満州の騎馬民族が国号を清とあらため漢土を席巻、明の旧臣らが続々と清に寝返っていく中で、「抗清復明」を高らかに掲げて青年は国を作った。 台湾島に建てられたその国は、わずか22年の間だけ幻のように耀いた。 【編集担当からのおすすめ情報】 「飯嶋和一にハズレなし」と称される歴史小説の巨人、 『星夜航行』以来7年ぶりの最新作がついに刊行! 中国大陸、そして台湾へ…… 17世紀の漢土沿海で繰り広げられた激動と、歴史を紡いだ人々の矜持を、独自の視点で辿っていく雄大な物語。 どうぞお楽しみください。
作家と出会う 作家も出会う 大反響の「GOAT」に姉妹誌が誕生します。 その名も「GOAT meets」。読者が作家たちと出会う場として、そして作家自身が新たなテーマと出会う場として、7月24日に船出します。 第一特集は、金原ひとみ氏、朝吹真理子氏による「韓国文学を旅する」--芥川賞作家が、イ・ラン氏ら韓国人クリエイター、チェ・ヘジン氏やペク・スリン氏ら韓国人作家と邂逅し、その取材体験を書き下ろし小説として発表する前代未聞の試みです。 女優・唐田えりか氏のインタビュー「表現者として必要なことは韓国から学んだ」、韓国の人気作家チョン・セラン氏、映画監督・山中瑶子氏による特別寄稿もお楽しみに! ジャンル横断にも積極的に取り組みます。漫画家今日マチ子氏には、名著『cocoon』から15年の節目として、戦後80年の沖縄を訪れ、その風景を描き下ろしてもらいます。そのほか気鋭のライター・ワクサカソウヘイ氏による「タンザニア巨大見聞録」、そして、闇文芸四天王(!)も登場するという噂。 ■執筆予定 小佐野彈、小田雅久仁、乙一、小泉綾子、櫻木みわ、愼允翼、白川優子、滝口悠生、中山祐次郎、乗代雄介、星野智幸、李琴峰……(敬称略) 【編集担当からのおすすめ情報】 「GOAT meets」が扱う作品は、小説やエッセイ、ノンフィクション、さらには詩、短歌まで幅広いです。さらには、それらの作品を写真や現代アートとともに編み込むことで文芸の可能性に挑戦! 紙の雑誌ならではの、さまざまな「ミーツ」をお届けします!
今日のメニューは? 美味ショートショート 路地裏にたたずむ“OGATA”という看板を掲げたお店ーー通称、「もしも料理店」。 その日やってきたのは、仕事のプレッシャーに悩む男性だった。彼の話をじっくりと聞いたシェフはこう言う。 「じつはちょうど、お客様にうってつけの食材が入ってきたところなんです」 取り出したのは、なんと30センチほどの大きさの“オフロード車”だった。 「こちらは、山の中を走っていたという、若い自動車です。こちらをお召し上がりいただきたいと思います」 シェフは自動車をさばき、調理し、見事な一皿に仕上げた。半信半疑で食べた男性は、野性味あふれる美味しさに驚く。そして、その胸にはひとつの思いが去来するーー。 突拍子もない食材を、意外な料理に作り上げてしまう、ちょっと不思議な料理店。少し疲れた身体も、なんだかむしゃくしゃした気持ちも、その一皿が癒してくれる。自動車、月、公衆電話にトランペット。さあ、今日のメニューは……? 料理監修は、さわのめぐみさん(ものがたり食堂/Nami Zaimokuza)。 お腹も心も満たしてくれる、美味しいショートショート、11編の詰め合わせ。 【編集担当からのおすすめ情報】 ショートショート作家として精力的に活動する田丸雅智さんの最新作品集、今作のテーマは“料理”。隙間時間に、夜のリラックスタイムに最適な、美味しくて心も安らぐショートショート集です。さて、今日の一皿はどれにする……? 単行本特典として、巻末にオリジナルレシピも収録。
戦後80年。今、伝えたい渾身の反戦小説 高校2年生の遙瑠は、ある日自転車事故に遭う。目を覚ますとそこは、戦争の爪痕が色濃く残る昭和の世界。一冊の生徒手帳を手がかりに自分が「浜口晴子」という少女になり昭和33年にタイムスリップしたことを知る。 晴子として暮らし、戦後の時代を懸命に生きる多くの人と関わるうちに、誰しもが苦しみ、悶えぬいた現実を深く実感する。令和の時代を生きる遙瑠にとっては歴史上のことだった「戦争」は、普通に生きる人々を巻き込み、その傷跡は決して癒えることがないものだった。晴子としての想い出もたくさん作り楽しく暮らしていたある日、事故により、また令和の時代に戻ることに。 令和に戻った遙瑠は「未来に生きている自分ができることは何だろう」と戦争への認識を新たにし、「伝える人」として歩みを進めるーー。そして祖父に連れられていった読書会では大きなサプライズが・・・・・・・。 膨大な取材をもとにしたリアリティ溢れる時代描写、生き生きとした昭和の人々の生き様・・・・・・。児童文芸のベストセラー作家が放つ唯一無二の圧倒的な反戦・人間ドラマ。 【編集担当からのおすすめ情報】 戦後80年。証言できる方も減り、戦争が遠い記憶になりつつあります。 だからこそ「忘れてはならない」と声を上げ続ける必要があるし、それがどんなに小さな動きだとしても、動くことが大切だ、と信じてこの作品を今刊行させていただきます。 著者は児童文芸のベストセラー作家。ゆえに大変読みやすく、自然にその世界に巻き込まれて体感できる小説になっています。現代の若い世代にとっては遠い歴史上のことに思える戦争が、いかに「普通の」人々を巻き込み、「ささやかな」幸せな暮らしを打ち砕いていったか。 一人でも多くの方に読んでいただき、「戦争」の絶対悪を感じていただきたい。担当編集として強く強くそう願っています。 一章 令和七年 1 疑惑 2 倉田山高等学校・演劇部 二章 昭和三十三年 1 晴子 2 月給二万円 3 軍艦マーチはたからかに 4 戦後は終わったのか 5 時代のにおい 6 本物のデート 7 日本は勝ったかもしれない 8 歴史を変える 9 伊勢湾新聞 10 ぼくらも今に兵隊さんだ 11 戦争まみれ 12 最後の授業 参照 令和七年 1 五日間の冒険 2 ビビアンリー?
お父さんに家族との対話を要求します! 高校三年生の千秋は、父と兄との三人暮らし。左翼政党員の父は、勝てない選挙に出続けて六年。兄は父の出馬をきっかけにいじめられ、引きこもりになった。母は同じころ家を出た。政治と政党に没頭し話の噛み合わない父だが、千秋は対話をしたいと願う。 すれ違う三人の家族を中心に、左翼政党員を親にもち風変わりな名前の自助サークルに集う「活動家二世」たち、震災のボランティアをきっかけに政治活動に出合う青年、高校の生徒会長選挙のドキュメンタリーを撮ることで新たな視点を得る高校生──それぞれの姿を家族の物語とともに描く全6話。 わたし選挙権の話なんてしてないじゃん。話聞いてよ──「千秋と選挙」 母の言葉とわたしの言葉はちがうのに、わたしは母の言葉を借りてしまう──「佐和子とうそつき」 どっちもそのひとで、どっちも親子の本当じゃん──「和樹とファインダー」 ボランティアって素晴らしいと思ってん──「康太郎と雨」 親父は結局、子どものことなんて考えてないんです──「健二とインターネット」 話すことを諦めたら、わたしはお父さんを憎んで、憎んで憎んで、死んでほしいと思っちゃうかもしれない──「千秋と投票日」 【編集担当からのおすすめ情報】 本作は著者が大学の卒業制作として執筆した同名の小説を基にしています。登場人物を増やし、それぞれの人生をふくらませ、新たな物語が誕生しました。 WEBの小説誌「STORY BOX」での連載時は、毎号圧倒的なアクセス数を記録しました。連載終了後、さらにブラッシュアップを重ねています。 政治をエンタメとして描くことに新人作家が挑んだ意欲作、ぜひお読みください。
「苦」を諧謔的に描く“小説の鬼”の出世作 「なぜ、あなたは、私がはじめにあなたと一しょになろうといった時に、いけない、おれは甲斐性なしのいくじなしなんだから、と白状してきっぱりとことわらなかったんです。……いくじなし」 日々、妻のヒステリー発作に悩まされている売れない画家の住友。要領が悪く、お金もない住友を、住友の親がいようが、近所の目があろうが、おかまいなしに大声で騒ぎ立てる妻の存在が、彼にとっては「苦」そのもの。 さらに、芸者の恋人を父親に奪われてしまった住友の友人、妻の親によって妻を芸者に売られてしまった周旋屋、じつは家族につまはじきにされていた住友の妻など、苦しい思いをしている人々を、ユーモラスに描いた作品。 大正から昭和にかけてさまざまな作品を発表し、芥川龍之介や直木三十五、水上勉らに多大な影響を与えた“小説の鬼”の出世作。
輜重兵にスポットを当てた異色の戦争文学 「どうせ、向うが闇の世を生きるのやったら、今日まで仲よかった馬と一しょに、あしたから暮したかて……かめへんやないか。わしは、この馬が好きなんや」 終戦直前に軍馬の世話をする輜重特務兵として徴集された肥田善六。馬を忌避する習慣のある地に生まれた善六だが、担当する馬・敷島と暮らすうちに絆が生まれ、復員時には全財産をなげうって買い取ることに。敷島は大荷物の運搬や農耕などに活躍し、善六はそれなりに蓄えもできたが、映画の撮影に協力したとき、敷島が大事な蹄に致命的なけがを負ってしまって……。戦争の爪痕と時代の変遷、差別したがる日本人の特質、他者への愛情など、多くの要素が盛り込まれた名篇。 併録の『兵卒のたてがみ』は、『馬よ花野に眠るべし』の1年前に書かれたもので、輜重隊時代のみにスポットを当てた吉川英治文学賞受賞作。 いずれも輜重特務兵であった著者の実体験をもとに描かれており、思い入れの強い作品である。
どうかあなたに、希望の光がさしますように 「太ったら、食べちゃダメなの」。幼いころに聞いた母の言葉をずっと忘れられないでいる早織。 早織は小学校6年生ごろから体重が増えはじめ、体型を何よりも重視する母は彼女の食事量を厳しく制限した。お菓子はダメ、お代わりはダメ。でも、もっと食べたい、もっと痩せたい。 早織は食べて吐くを繰り返すようになり、吐くための食料を手に入れるため、食べ物を万引きするようになってしまう。結婚をして夫と娘と仲良く暮らしながらも、彼女は万引きをやめられないでいた。 そんなある日、早織は妹からの電話を受ける。それはずっと避けていた母の命が、もう長くないと告げるものだったーー。 母の呪縛。痩せたいという願い。間違いだとは分かっているのに、今日も彼女は正解を選べない。 既刊続々実写ドラマ化、『殺した夫が帰ってきました』『塀の中の美容室』で大注目の著者が描く新境地の傑作小説。
社会派ミステリの名手によるクライム巨編 後味最凶の作家デビュー20周年記念作品! 二〇二〇年五月、大学生の芹沢涼風はコロナ禍の影響で息が詰まりそうになる毎日を過ごしていた。ある日、彼女が池袋の公園を訪れると、そこには同じように孤独に苛まれ、行き場をなくした者たちがいた。 血がつながっていなくても、戸籍上は同じ家族でなくても、強い絆で結ばれた「本物の家族」を作りたいーー。涼風は親しくなった者たちと「こうふくろう」を立ち上げる。 しかし、いつしか想像を超えて巨大になった集団の内部では、日常的に犯罪行為が繰り返されるようになっていく。 不穏な日常、酷薄な悪い奴ら、鳥肌必至のラストシーン……これはあなたのすぐ隣にある物語。 人々の心に巣くい、世に蔓延る「闇」の根源を炙り出す、戦慄のクライム巨編! 「今までで一番ダークな作品になったかもしれません」(著者)
“地方創生の真実”を暴く! 大ベストセラー『震える牛』『ガラパゴス』に連なる樫山順子シリーズ最新刊! 北海道警から山梨県警に異動した樫山順子は、大規模農場開発に怪しい動きを嗅ぎつけた。地元政治家らの間で暗躍するのは、かつて規制緩和の名のもと経済を壊した男。中国の強欲投資家も加わった資本主義の魔手から、樫山は山岳の楽園を守れるか。 「本作には現在進行計のネタを盛り込んでいる。心してお読みいただきたい」--著者 【編集担当からのおすすめ情報】 本書は、「震える牛」シリーズ第3作『アンダークラス』にて、田川信一刑事のバディ役として登場した警察キャリアの樫山順子によるスピンオフシリーズにして、『覇王の轍』の続編。さらには『不発弾』『イグジット』で暗躍する金融コンサルタント・古賀遼も、本書にはキーマンとして登場します。『楽園の瑕』を入り口にし、ぜひこれらの関連作品もお楽しみください。