出版社 : 徳間書店
早春の夕暮れ、三河以来の旗本大河内家では、跡取りの右京の婚礼が行われようとしていた。しかし、花嫁の綾音を乗せた駕篭が門前に着こうというとき、右京はまだ板橋にいた。父の大目付・政盛の代参で川越へ赴き、用事を済ませ、江戸へ戻る途中に事件に巻き込まれたのだ。新たな門出を迎えたひょうたん息子と頑固親父に更なる試練が…。
新署長赴任の朝。署の正面玄関前で、容疑者を連行中の刑事が雑居ビルから狙撃された。目の前で事件に遭遇した歌舞伎町特別分署の沖幹次郎刑事は射殺犯を追う。銃撃戦の末、犯人のひとりを仕留めるが、残るひとりは逃亡した。金を生む街、新宿歌舞伎町で暴力組織が抗争を開始したのだ。息も吐かせぬ展開と哀切のラストシーン。最高の長篇警察小説。
貞元二十年(西暦八〇四年)。遣唐使として橘逸勢らとともに入唐した若き留学僧・空海。洛陽での道士・丹翁との邂逅を経て長安に入った彼らは、皇帝の死を予言する猫の妖物に接触することとなる。憑依された役人・劉はすでに正気を失っていたが、空海は、青龍寺の僧とともに悪い気を落とし、事の次第を聞くことになった。
妖物が歌ったのは李白の「清平調詞」であり、約六十年前、玄宗皇帝の前で楊貴妃の美しさを讃えた詩であった。白居易という役人から示唆され、一連の怪事は安禄山の乱での貴妃の悲劇の死に端を発すると看破した空海は、その墓がある馬嵬駅に赴く。墓前には白居易ー後の大詩人・白楽天が。彼は空海に、詩作に関する悩みを打ち明けるのだった。
絵が好きな少女・さくらには、不思議な力があった。空想で描いたはずの場所や物が、そのまま実在しているのだ。ある日、描いたのは、月光に照らされ、夜の池に浮かぶ美しい女性の姿。手には花束を抱え、胸にはナイフが突き刺さっていた。不吉なことと、母に絵を描くことを禁じられ、大人になったさくらは、祖母から叔母の話を聞いて愕然とする。女優だった叔母・ゆう子は、20年前、京都の広沢の池で刺殺されたというのだ。その死の様子は自分が昔描いたあの絵とそっくりである。さくらは、ゆう子が当時下宿していたペンションを捜し出し、部屋を借りて叔母の死の謎を探ろうとする。次第に明かされるゆう子の凄絶な人生。そして驚くべき死の真相とは…。
舞い落ちる桜の花びらの下に、彼女が立っている。俺は夢中で、シャッターを切る。初めて出会ったにもかかわらず、俺の魂は彼女に引き寄せられた。そして彼女も…。だが、異国の地に生を受けた青年が、やがて故国に帰る時が来る。青年の故郷まで、彼女は追いかけた。ただ、もう一度だけ、会いたい。ようやく再会を果たし、結ばれる二人の背後で流れる、河村隆一のラブソング「抱きしめて」。でも、それはあまりにも切なく美しい詞と旋律。あたかも別れを予言するかのように…。そして、運命は再び二人を引き離した。互いに想いながらも、すれ違い、それでも想いを断ち切れず、遠い海の果てに想いを寄せる。二人の恋の行方は-。台湾人青年・コウと水沙の、切なくもひたむきな恋の物語。
レッド・アメリカと呼ばれるキューバ、ニカラグアで起きた殺戮事件。反政府ゲリラ、政府軍、米軍ーテロリストの手により、敵味方の区別なく惨殺された。その頃、日本での戦いを終えたシド・アキヤマはテヘランにいた。イランの国民的指導者カッシマーが殺害され、街は混乱していた。そこへ再び内閣官房情報室からの依頼が…。
石屋に見習い奉公に出ていた十六歳の市助は、日頃から主や兄弟子による苛めを受けていた。そしてある日、ひどい折檻により、命を落としてしまう。主は事件を隠蔽しようと事故と偽るが、市助の義父はそこに悪事の匂いを嗅ぎ取り、よからぬ企みを抱く…。死者の声なき声を聞き、足引き寺の四人と一匹が立ち上がった!好評シリーズ第八弾。
攘夷御用盗・魁銀次郎は、縁あって相楽総三と行動をともにする。草莽の志士、相楽は密かに薩摩藩と通じ、江戸上屋敷で浪士隊を募る。西郷隆盛の意を受け、江戸の撹乱を企図したのだ。江戸城二の丸放火、薩摩藩邸焼き打ち、そして戊辰の戦へと続く幕末の大きなうねりの中で、銀次郎の非情剣が歴史に拮抗し閃光を放つ。長篇時代小説。
男が刺し殺された。さっそく探索に取りかかった文之介と勇七は、人探しのために上方からやってきた旅篭の客だと突きとめる。他方、沼里の凄腕用心棒里村半九郎は、暖簾分けされたばかりの商家に雇われて、上方訛りで話す平田潮之助を守っていた。しかし、何者かにたばかられ、かどわかされてしまう。同じころ文之介は、人を探しに大坂から下ってきたという怪しげな男を見つけたが…。書下し長篇。
老中・松平定信は、御台所・篤姫から呼び出しを受け、最近、将軍・家斉の様子がおかしいと相談をされた。彼は腹心の部下である北町奉行所の隠密廻り同心・鏑木十左に探索を命じる。早速、大奥に潜入した十左は、家斉を誑かそうとする女中を見つけ、追い詰めた。しかし自害されてしまい、手がかりが消えたかに見えたが、その女の身体には…。書下し痛快時代小説。
いっけん仲良しのOL三人組。でも実態はちょっと違う。他に拠る場所がないというだけの関係。三人の微妙な序列も煩わしい。本当はそこから抜け出したくてたまらないのだ(「霞網」より)。一般職OL、女子大生、キャバ嬢、文芸編集者、女子中学生、服飾デザイナー、女子高生、雑誌ライター…さまざまな年齢・職業の女性たちをめぐる物語。女の魅力、可笑しさ、哀しさ、はかなさ、したたかさ、ばかばかしさを抜群の冴えで描く。
僕は少し変わった女の子、武藤さんにある絵の展覧会に誘われた。なんとなく行ってみたその場所の、景色や空気に覚えがあった。そして、導かれるように姉のルカと再会した。父は僕を養子に出してルカと暮らしているはずだった。父はどうしているのか聞いたら「いないわ。自殺したの」そう小さく言った。それから僕はルカがいるこの家に出入りするようになった。父が遺したこの画廊は閉店している。早く処分すればいいのに。それが出来ないのは、たぶん父のにおいが残っているからだろう…。行き場のない絵が僕たちに多くの言葉を語りかける。一つ一つの言葉が、心と体を優しくさせる物語。
弟夫婦の子供、翔が生まれたとき「あら、目元が由希によく似ているわね」と言ったのは由希の母親だった。似ていたのは顔だけではなかった。成長していく翔から、絵の才能を垣間見る由希。画家になることが夢だった由希は、翔に絵の指導をするようになる。次第にその思いは過剰なまでに強くなる。しかし大きく育つ翔から、絵を描く時間が他のものに奪われていき…。他6編、家族の繋がりを様々に描く珠玉の短編集。
ミュウーレトロウイルスの進化形に感染した人間から生まれた子供たち。生まれながらに持つ特殊能力ゆえ社会への適応力を欠き、悪魔が人間の腹を借りて生まれたといわれていた。隔離か保護か、分裂する内閣。そんな折、病院から逃走したミュウを追って、元傭兵のシド・アキヤマは飛騨山中にいた。殺しのプロはなぜミュウ・ハンターとなったのか。
暴力団・東明会の金を持ち逃げした男が、軽井沢に潜伏している。金額は五億。東明会はもとより、大金の臭いを嗅ぎつけた危険な連中が、この閑静な別荘地に現れ、血眼になって男の行方を捜しはじめた。かつて新宿で「五人殺しの健」と呼ばれ名を馳せたが、今は軽井沢で別荘管理人として静かに暮らす田口健二のもとにも協力を要請する輩が訪れ、事態は急変する。雪山に乱反射する、欲望、復讐、狂気-すべてが暴力に収斂していく。圧倒的な筆致で現実世界に迫る、馳星周の最新長篇。
お笑い芸人のミナミは、ここ数年ですっかり人気も落ち、今はホテトルの運転手をして暮らしていた。年末のある日、以前、ホテトルで窃盗の嫌疑をかけられ、ミナミに助けられた京子が、お金を返しに来た。ちょうどその頃、お笑い学校の同級生だった友人から仕事の依頼が来ていた。稚内の老人ホームの年越しイベントで漫才をやらないかというのだ。断るつもりだったミナミだが、京子が正月に帰るところがないと聞き、最後の舞台をみせようと、京子を北海道へ誘う。自殺未遂をしたばかりの元相方・サカイ、そしてミナミの父・ハツオも同乗し、4人を乗せた車は27日朝、大阪を出発する。それぞれの思いを乗せ、北海道・稚内をめざして、爆走する車。名古屋〜東京〜仙台と、行く手に待ち受けるさまざまな事件を乗り越え、果たして、大晦日、忘れられた漫才師は、最後の舞台に立つことが出来るのか。