出版社 : 筑摩書房
異常な寒波のなか、私は少女の家へと車を走らせた。地球規模の気候変動により、氷が全世界を覆いつくそうとしていた。やがて姿を消した少女を追って某国に潜入した私は、要塞のような“高い館”で絶対的な力を振るう長官と対峙するが…。迫り来る氷の壁、地上に蔓延する略奪と殺戮。恐ろしくも美しい終末のヴィジョンで、世界中に冷たい熱狂を引き起こした伝説的名作。
五反田にある社員200人ほどの文房具会社が運動会を開いた。いい年をして独身寮にいる名物男、社内の嫌われ者のおべっか男、ヨン様ばりのモテモテ男、「ママ」の異名をもつ色っぽい社長秘書、べらんめいの姉御肌…会社にはじつにさまざまな人材がいた!普段とは違う状況下で彼らの人生がほの見え、会社生活の新展開もほの見える。3年後のあの人を描く書下し短篇を追加。
黄金期の日本SFを、希代の小説家にしてアンソロジストが同時代に編んだシリーズ第二弾。星新一のニューウェーブ「門のある家」、小松左京の力技「結晶星団」に加えて、編者自身の傑作「おれに関する噂」、松本零士のセクシー美女が登場する「セクサロイド」など、一作一作が長編なみの濃さと読みごたえを持つ作品がずらりと並ぶ1972年度版!
文豪、獅子文六が「人間」としても「作家」としても激動の時を過ごした昭和初期から戦後を回想し、深い家族愛から綴られた自伝小説の傑作。亡き妻に捧げられたこの作品は、母を失った病弱の愛娘の成長を見届ける父親としての眼差し、作家としての苦難の時代を支え、継娘を育てあげ世を去った妻への愛、そして、それら全てを受け止める一人の人間の大きな物語である。
「誰かが私に言ったのだ/世界は言葉でできていると」-未完に終わった“かれ”の草稿の舞台となるのは、基底と頂上が存在しない円筒形の塔の内部である“腸詰宇宙”。偽の天体が運行する異様な世界の成立と崩壊を描く「遠近法」ほか、初期主要作品を著者自身が精選。「パラス・アテネ」「遠近法・補遺」を加え、創作の秘密がかいま見える「自作解説」を付した増補決定版。
緑溢れる武蔵野にパートナーと老いた犬と暮らす棚(たな)。ライターを生業とする彼女に、ある日アフリカ取材の話が舞い込む。犬の病、カモの渡り、前線の通過、友人の死の知らせ…。不思議な符合が起こりはじめ、何者かに導かれるようにアフリカへ。内戦の記憶の残る彼の地で、失った片割れを探すナカトと棚が出会ったものは。生命と死、水と風が循環する、原初の物語。
大人のお茶会へ、ようこそ。あなた、どこかへ辿りつけるでしょうか。騙されたと思ってひと口、飲んでみてください。美味しいです。心地よく酔います。楽しいです。そして、ちょっと怖いです。魅惑のパスティーシュ小説集。
一九七〇年代は、日本SFの黄金期である。ホラー、コミカル、ナンセンス、アクション等々、小説やマンガのあらゆる楽しみが、SFという可能性の中で結晶し、新しい世界を切り開いていく。-はなやかな話題と、挑戦的姿勢、それが生み出す傑作に満ちていた一九七一年の日本SFを、同時代に居合わせたかのように体験できる歴史的アンソロジー。
虎の皮を被ってライオンと戦うはめになった男が、見世物の檻の中で出会ったのは…。ユーモラスな展開の中に人生の深淵を垣間見る「銀色のサーカス」、母の乳房、脈打つ心臓、鼠取り、砕かれた手…。精緻で謎めいたイメージが交錯する「アラベスクー鼠」、電信柱と柳の木の奇妙な恋物語「若く美しい柳」など、日常の裏側にひそむ神秘と怪奇、啓示と奇蹟を詩情ゆたかに描くコッパードの珠玉の短篇集。
明治2年、日本を「未開の国」と見下すお雇い外国人リチャードと、ハーフゆえに日本で爪弾きにされてきた通訳の丈太郎は、船の故障で長期滞在することとなった長崎の伊王島で、佐賀藩の天才発明家・田中久重や伊王島の村人らと条約で定められた洋式灯台の建設に取りかかる。言葉と文化の違い、頑迷な日本の役人、想定外のトラブルなど立ちはだかる困難の前に孤島に光を灯すことはできるのか?
第二次世界大戦前夜のイタリア、山荘に住む美貌の未亡人メアリーは親子ほど歳の離れた英国高官エドガーからプロポーズを受ける。一途なアプローチに心を動かされるメアリーだったが、そこにエドガーとはまったくタイプの違う二人の男性が現れて物語は急展開を迎える。芸術の街フィレンツェの華麗な英国人社交界を舞台に、刻々と変化を見せる女の心情を鮮やかに描いたモームの傑作を新訳で。
江戸時代において漢詩は詩歌の王道をなす。それはまた知識層が身につけるべき素養のひとつでもあった。幕末維新という激動期、志士たちは数多くの優れた漢詩を遺している。勝海舟、西郷隆盛、吉田松陰、桂小五郎、高杉晋作など、時代を代表する人々が人生の画期において詠じた詩は、その心情の紛うかたなき結晶である。時に烈々、時に艶美。それら詩の味わいとともに描かれる二十の肖像。
フローベールの最初の長編小説を徹底的に読み抜くことによって、その「テクスト的な現実」に露呈するさまざまな問題を縦横に論じる。歳月をこえた書き下ろし2000枚、遂に完成!
傑作ぞろいの「人間喜劇」からセレクトする3冊のコレクション、第3回。ナポレオンが戦争を拡大してゆく19世紀初頭のフランスを舞台に、貴族の名家を突如襲った陰謀の闇が描かれる。バルザック最高のヒロイン、サン=シーニュ嬢を軸に、英雄的な従僕ミシュ、冷酷無残な密偵コランタン、若き弁護士グランヴィル、さらにナポレオンやフーシェも登場する歴史小説の白眉。
第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞W受賞の衝撃デビュー作「愚直であることは人の美点だと思う『こちらあみ子』は、とても面白かったです。僕はあみ子ほど純粋ではありませんでしたが、はみ出し方や失敗の仕方に近いものを感じ、自分の子供の頃と重ねて読んだ部分がありました。忘れられない一冊です。」--又吉直樹あみ子は、少し風変わりな女の子。優しい父、一緒に登下校をしてくれる兄、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示した異才のデビュー作。【目次】 「こちらあみ子」「ピクニック」「チズさん」解説 町田康「「ありえない」の塊」穂村弘いつか、たった一人の読者の手によって、ボロボロになるまで繰り返し読んでもらえるような物語を生み出すことができたら、どんなにか幸せだろうと思っています。そういう物語は、書く側が命懸けで臨まない限り決して生まれてこないのだと、今更ながら思い知った次第です。--今村夏子 (太宰治賞受賞の言葉より) 「こちらあみ子」「ピクニック」「チズさん」解説 町田康「「ありえない」の塊」穂村弘