1996年8月20日発売
天下取りなどいじましき限り、日本中を跳梁し、唐天竺まで駆け抜けようぞ。秀吉、家康らの攻防を笑いとばす大盗石川五右衛門。京の隠れ家に数々の名器を集め、大茶会を催す放胆無類の風流ぶりには、秀吉も驚嘆するばかり。天地に悪業善行の別などあるものかと広言し、個性的な荒くれどもを引き具して戦国の世を傍若無人、痛快に暴れまわった希代の風雲児の一生を、伸びやかな筆で描破した雄編。
即身仏を志す盗賊の心情、信長の影武者をめぐる謀略、蹴鞠に入れあげ乞食に身を落とす今川氏真の運命、討入りを脱落した高田郡兵衛の苦衷、首斬り浅右衛門家に養子に入った男の巧妙な計算…“志願”というユニークな視点から歴史の謎を切りとった九編の異色連作。多年、本格推理界をリードしてきた著者が、卓抜な着想と絶妙の語り口で、我意と妄執に憑かれた人間のすさまじい情念の世界を抉り出す。
敗色迫る昭和一九年五月、突如姿を現わした巨大航空戦艦華厳・雷峰。マリアナ諸島制圧をめざすスプルアンス大将の米高速航空艦隊を、みごとに撤退させるが、依然として戦況は苦しい。はたして、フィリピン奪回に燃えるマッカーサーの大船団が迫りくる。ニューギニア沖ビアク島海上を邁進するマッカーサー艦隊へ、遠州竜一郎長官は、決然と黎明の奇襲を仕かけた。至近距離で激突する烈風とF6F。天山隊は800キロ魚雷を空母群にはなち、彗星隊は250キロ爆弾をかかえ、米戦艦へ突入していく。わき立つ海面に軽巡ナッシュビル艦上でなすすべもなく震えるマッカーサー。退却をはじめた米艦隊に、緒戦は完勝の超機動航空艦隊だが…。フィリピン沖はさらに戦雲がたれこめる-。
いま甦る本格推理小説のスタンダード!本格ミステリ界の重鎮・鮎川哲也の代表的傑作集!『赤い密室』には、名作『りら荘事件』の原形として名のみ伝わる幻の初期中篇「呪縛再現」を特別収録!他に、殺人現場から逃走したピエロがトンネルの中で消失してしまう「道化師の檻」、鍵の掛った浴室でストリッパーの死体が発見される「黄色い悪魔」等、全6篇。