2001年12月31日発売
彼女は力をこめて、男の股間に膝を突き上げた。男の顔が血の気を失う。次に、右腕を女めがけて勢いよく振る。エリーの手は女のこめかみをとらえた-パスコー主任警部の妻エリーを正体不明の男女が襲撃した。とっさに逃れたエリーだが、さらにはパスコー家を見張っていた何者かが友人のダフネを殴打する事件が起きる。ダルジールたちは、パスコーが過去に担当した事件、現在捜査進行中の横領事件との関連を追及するが、女性刑事のノヴェロは、ひとり意外な事実に目を留めていた…その完成度の高さに、ますます評価が高まる、シリーズ最新刊。
日常に普及したナノテクノロジーが、文明社会を根底から変容させた21世紀中葉。世界は、多種多様な人種・宗教・主義・嗜好の集まりからなる国家都市に細分化されていた。文化の坩堝・上海でヴィクトリア時代復興を願うフィンクル=マグロウ卿は、孫娘の教育のため、若き淑女のための絵入り初等読本の開発をナノテクノロジストのハックワースに依頼した。ナノテクの粋を集めたプライマーは、読み手を主人公とし、その境遇を“物語”に取りこみながら教育していく、究極のインタラクティヴ・ソフトだった。しかし、ハックワースが自分の娘のために不正コピーした〈プライマー〉は、ある事件をきっかけに、貧困と虐待の境遇にある少女ネルの手にわたってしまう。プライマーをめぐる複雑な思惑が渦巻くなか、そのささやかな物語によって育てられたネルは、己れの人生という大いなる物語を切り拓き、その物語の力は、やがて激動の世界そのものを変えてゆく。『ニューロマンサー』の“近未来”に『ハイペリオン』の“叙事詩”をリミックスし、デジタル仕様の世界観を華麗かつ過激に超越する、SF新紀元のパラダイムシフト。ヒューゴー賞・ローカス賞受賞。
ちんぴらに袋叩きにされて、“俺”は入院した。そこで偶然、若いころ一緒に暮らした昔の恋人と再会し、彼女の頼みで一通の手紙を届けるために雪の田舎町を訪れる。そんな“俺”の身辺に不審な男たちの影が。理由は何か?抵抗も虚しく、“俺”は町を追い出されてしまうが、ふたたび舞い戻った。やがて吹雪の雪原に繰り広げられる死闘…ススキノ便利屋シリーズ、最新作。日本推理作家協会賞受賞後第1作。
事件は四年前、新潟県・水道町の日和山海水浴場に近い砂浜で起こった。忽然と消えた少女。事件は北朝鮮がらみの拉致かと思われ、当時航空自衛隊百里基地に勤務する岬美由紀は不審船を追ってスクランブル発進した。そして2001年8月、岬の前に現れた北朝鮮の女性工作員・李秀卿!東京カウンセリングセンターに勤務し、『千里眼』といわれる岬美由紀以上に人の心を読み解く李の凄さ。二人を軸にして語られるエスピオナージュは国際サスペンスの全く新しい地平を拓く。物語はリアルタイムで進行するドキュメントタッチの緊迫感で、シリーズ最長の作品となったが、一気に読める痛快作である。