2003年3月1日発売
血の味血の味
「中学三年の冬、私は人を殺した」。二十年後の「私」は、忌まわしい事件の動機を振り返るー熱中した走幅跳びもやめてしまい、退屈な受験勉強の日々。不機嫌な教師、いきり立つ同級生、何も喋らずに本ばかり読んでいる父。周囲の空虚さに耐えきれない私は、いつもポケットにナイフを忍ばせていた…。「殺意」の裏に漂う少年期特有の苛立ちと哀しみを描き、波紋を呼んだ初の長編小説。
無情の世界無情の世界
新世代携帯電話と高速ネットから妄想が続々と吐き出され、“リアリティ”がヤバいほど希薄になった現代ニッポン。昨日は、快楽殺人の犠牲者が夜陰に転がり、ガキたちが覚醒剤を吸う。今日も、大バカ者が超レアなブランド腕時計を命を賭けて万引きし、ストーキングを純愛と誤解する。この国を覆い尽くす狂気を抜群のユーモアとドライブ感で描破し、野間文芸新人賞に輝いた傑作作品集。
父父
満州で生まれ、朝鮮で育ち、一高・東大に進学した輝かしい経歴の「父」は、反面、十代で結核に罹患し、敗戦の引き揚げで弟妹を失う挫折を味わった。天才的資質ゆえに深かった屈託は、独特の直情的行動に現れ、家庭では小学生の「私」に毎夜文学や哲学を講義し、庭中を花で埋め尽くした。そして、鉄鋼会社の役員を退いた後は、自ら死をたぐり寄せるかのようにせき止めシロップを多飲する。鮮烈だった「父」の生と死。
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