2003年6月25日発売
土佐の山に囲まれた盆地に、ひっそり佇む嬉才野村。村の家々では、かつて盛大な「神祭」が行われていた。それは、氏神様に一年の収穫を感謝する祭りであり、遠方からの親戚縁者が集い、村が賑わう日でもあった。村に住む老女・由喜の脳裏に甦った、四十年前の「神祭」の奇妙な記憶とは…。ある盆の日、山中に忽然と消えた公務員・定一。山に隠れて、あることないことを吹聴し、村人を嘲弄し始めた。定一は神隠しにあったのか、それとも死んでしまっているのか…。嬉才野村を舞台に、神秘と幻想美あふれる土俗世界を描いた、珠玉の短編小説集。
怪異譚を蒐集するため諸国を巡る戯作者志望の青年・山岡百介は、雨宿りに寄った越後の山小屋で不思議な者たちと出会う。御行姿の男、垢抜けた女、初老の商人、そして、なにやら顔色の悪い僧ー。長雨の一夜を、江戸で流行りの百物語で明かすことになったのだが…。闇に葬られる事件の決着を金で請け負う御行一味。その裏世界に、百介は足を踏み入れてゆく。小豆洗い、舞首、柳女ー彼らが操るあやかしの姿は、人間の深き業への裁きか、弔いかー。世の理と、人の情がやるせない、物語の奇術師が放つ、妖怪時代小説、シリーズ第一弾。
5歳年上のいとこ、かれんと恋におちた大学生・勝利。そうとは知らず、勝利に思いをよせる星野りつ子。追いつめられた勝利は、ついに星野に「秘密の恋」をうち明ける。単身赴任していた勝利の父親も帰京し再婚、勝利の妹も誕生して、かれんとその弟の丈そして勝利の3人だけの生活が変わろうとしているー。番外編、丈の恋物語も収録する好評シリーズ第5弾。
「わたしは腕に犬を飼っているー」ちょっとした気まぐれから、謎の中国人彫師に彫ってもらった犬の刺青。「ポッキー」と名づけたその刺青がある日突然、動き出し…。肌に棲む犬と少女の不思議な共同生活を描く表題作ほか、その目を見た者を、石に変えてしまうという魔物の伝承を巡る怪異譚「石ノ目」など、天才・乙一のファンタジー・ホラー四編を収録する傑作短編集。
一夜にして森が消え、周囲が海になってしまった伝説の島イル・サン・ジャック。ミチルとロイディがこの島の宮殿モン・ロゼを訪れた夜、曼陀羅の中で首を落とされた僧侶の死体が見つかる。いったい誰が頭を持ち去ったのか。かつてある街の塔で出会った美しい女王と、ミチルの謎は解かれ、そして、新たな謎へと引き継がれていく…。
デルフィニアの内乱に勝利し、ウォルは再び玉座に即いた。黄金の戦女神とたたえられたリィもまた王女の称号をもって白亜の宮殿に迎えられた。それから三年ー平穏だった王都に暗雲が立ちこめる。リィをつけ狙う不気味な暗殺者。不可解な公爵家の挙兵。陰謀を察知したウォルの決断とは。
ときは鎌倉末期。幕府の命数すでに無く、乱世到来の兆しのなか、大志を胸にじっと身を伏せ力を蓄える男がひとり。その名は楠木正成ー。街道を抑え流通を掌握しつつ雌伏を続けた一介の悪党は、倒幕の機熟するにおよんで草莽のなかから立ち上がり、寡兵を率いて強大な六波羅軍に戦いを挑む。己が自由なる魂を守り抜くために!北方「南北朝」の集大成たる渾身の歴史巨篇。