2004年8月30日発売
十代で菊池寛に見出され、横光利一に才能を認められ、二二歳の時「酩酊船」で文壇デビュー、将来を期待されながらも以後一作の小説も刊行しないまま、奈良、山形、三重など日本各地を放浪、在野で文学研究に打ち込む半生を送った後発表した「月山」で、六二歳で芥川賞を受賞した作家、森敦。その間殆ど小説を書かなかったにも拘わらず、森は太宰治、檀一雄らと同人誌を作り、又、すでに名を成した錚々たる作家達が訪ねて来ては文学上のアドバイスを乞う。プロの作家でもなく、定職に就かない時期も永い、一介の在野の人間である森の文学理論は驚くべきものだった。本書は、五十代で東京に移り住み、文学研究に没頭した森敦に親しく接し、文学上の師弟関係となり、更に森敦夫妻の生活面まで助けるようになった著者が、森の没後十五年の今、作家の素顔と謎の半生、そして名作「月山」執筆と芥川賞受賞の経緯を評伝小説として綴ったものである。
世界で初めて全身麻酔に挑み、乳がんの摘出手術に成功した江戸後期、紀州の名医、華岡青洲。その成功に不可欠だった麻酔薬の人体実験に、妻と母は進んで身を捧げた。だが、美しい献体の裏には、青洲の愛を争う二人の女の敵意と嫉妬とが渦巻いていた…。著者の没後20年を記念して、新装版で甦る日本文学の作品。
自殺から3年後の命日の前日、飛鳥はひそやかな気配となって現れた。23歳の娘の死を受け入れられない母親、弟、すでに再婚した父親、男友だち、ストーカーだった男、弟の恋人-関わりのあった6人ひとりひとりの物語があぶりだす飛鳥の死の真相とそれぞれの心の闇。自ら命を絶った者と残された者の魂の安らぎを描く長編小説。
生きていれば何だって起きる。無残な事実も美しい奇跡も…。最後の仕手戦に賭ける相場師、妻を失った男、拳銃の元売人、柔道界から永久追放された男、拝み屋、流れ者、そして“出合い頭の人生”と呟く平凡な居酒屋の女。恋愛も、涙も、ミステリーもない。かわりに、心を強く揺さぶる10の孤独と人生が詰まっている。ざらざらした修羅場を生きてきた男の、大人のための短篇集。