2005年5月発売
「テロリンを殺せ!」ラジオからは戦意高揚のメッセージが四六時中流れ出す。テロリンっぽい子どもをいじめるテロリンごっこが流行する。テロリンっぽい行動をした奴は民衆のリンチでぶち殺される。いつ終わるともわからぬテロリストの襲撃に、民衆は疲弊し、次第に狂気の度合いを高めていった。肉体労働者の椹木武は病気の妻子を養うため、愛人を買春宿で働かせて稼ぎを搾取していた。小柳寛子は椹木のために、狂った客たちに弄ばれ続けていた。やぶ医者の斎藤良介は、今日も手術に失敗して一人を殺した。麻薬密売人の土門仁は浮浪者たちを薬漬けにしていた。素人画家の井筒俊夫は、売春宿で抱いた小柳のあとを尾け回していた。そして遂に最大級のテロが発生した。国家はテロリン殲滅の大号令を出し、地上最強の武器「神充」を確保せんと、大陸にある「地区」へ志願兵を送り込んだ。椹木、小柳、斎藤、土門、井筒、五人はそれぞれの思惑から「地区」へと向かう。しかし「地区」で待ち受けていたのは…超極限状況下における人間の生と死を、美しくかつグロテスクに綴る、芥川賞受賞作家渾身の破壊文学。
東京近郊の総合病院で、女性看護師が殺害されるという事件が起こった。同僚の夢野純は、さまざまな困難に直面しながらも、事件の謎を探ろうとするいっぽう、難病に苦しむ患者のケアに心を砕き、理想の看護師の姿を追い求め、激務に耐える毎日だった。ナースたちのきびしい勤務実態、ターミナルケアのむずかしさなど、医療現場の問題に真摯に取り組むナースたちの姿が感動を呼ぶメディカルミステリ。
新生児に先天的な脳障害を引き起こす「ゲノム・ウイルス」。この新種ウイルスによって甚大な被害を被ったアメリカ合衆国では、自然出産を禁止し、体外受精や胎児のDNAスクリーニングが義務化されようとしていた。そんな中、遺伝子関連問題を専門に扱う弁護士ルドルフ・カイヨワは、ある病院の不正卵採取疑惑を調査するうちに、大きな陰謀に突き当たることとなった。彼は友人の私立探偵オタや、依頼人の美女ローラらとともに謎に迫るが、やがて自らの出生にまつわる秘密にもかかわることとなっていく…。選考委員各氏から、群を抜くリーダビリティーと、エンターテインメントとしての完成度を高く評価された、近未来ハードボイルドの傑作。03年、第5回日本SF新人賞の佳作に入選。
青山キラー通り沿い。高度経済成長期に建てられた原宿団地。おしゃれな都心にありながら時代からとり残されたような不思議な空間を醸し出す。住人たちも変わり者ばかり。翻訳家、劇団員、スイス人マッサージ師、元取締役、広告デザイナー…そして団地の主のような老人・小曽根さん。不安や焦りを抱え生きる彼らの、おかしくて泣けて、ちょっぴり勇気をもらえる物語。
香港黒社会との関係が噂される塔真家に代々伝わる家宝、劉宝。その紅玉を目に当てて光に翳し、龍の紋章を浮かび上がらせることのできる人物こそ、一族に繁栄をもたらし次期総帥の花嫁となるー骨董商の凌は、その条件を満たす者として傲岸不遜な塔真家三男、貴礪に監禁され、花嫁として手ほどきを受けることに…。だが、お家騒動をめぐる罠が次第に明らかになり…。書き下ろしスリリング・ウェディングロマン。