2007年4月10日発売
徳川安泰の基礎を固めた家光の陰には、機知に富んだひとりの老中がいた。松平伊豆守信綱、通称「知恵伊豆」は、徳川家に持ち込まれた無理難題を次々に解決する。島原の乱の鎮圧を始め、由井正雪謀叛を未然に防ぎ、川越藩主として野火止用水を完成させるなど、機知と行動力をいかんなく発揮した男の「逆転の発想」。
私は愚図で、腑抜けだった。大学を出て、広告代理店に勤めるも、金儲け主義に嫌気が差し、辞めてしまう。その後、職を転々とし、流れ流れて料理屋の下足番になった。世間に背を向け、抜き身で生きていこうとした青年期から小説家になるまでの葛藤を執拗なまでに描きこんだ、私小説作家・車谷長吉の真骨頂。
「かわせみ」へ奉公に来た頃は、山出しの猿公といわれたお石だが、女中頭のお吉の丹精の甲斐あって、気のつく働き者の娘に成長した。ある日、大店の嫁にという話がくる。一大決心で嫁ぐことにしたものの、お石も「かわせみ」の人々もその日を思うと何故かしら涙が出てきてしまうのだった。表題作ほか全八篇。不朽の人気シリーズ。
浪人生の高岡裕一は、奇妙な断崖の上で3人の男女に出会った。老ヤクザ、気弱な中年男、アンニュイな若い女。そこへ神が現れ、天国行きの条件に、自殺志願者100人の命を救えと命令する。裕一たちは自殺した幽霊だったのだ。地上に戻った彼らが繰り広げる怒涛の救助作戦。傑作エンタテインメント、遂に文庫化。
鳥羽・伏見の戦で近代的な軍装の薩長軍に、なす術もなく敗れた新選組。時代はすでに日本刀ではなく、小銃の時代になったと土方歳三もわかってはいるのだが、その後も、甲府、宇都宮、会津で戦い続け、そして敗れた。北の果て箱館に行き着いた歳三は、最後の戦いに臨む。新世界に背を向け、負け続けた漢の姿を鮮烈に描く。
妻と赤ん坊をホテルに残し、浜辺を散策する男。中洲の風俗で働く十九歳の少女。スーパーの店員から介護士に転身した青年。突然死した最愛の夫に愛する女性がいたことを知った妻。そして水族館から逃げたイルカは、どこを泳いでいるのか…。深い喪失感を抱えながら生きていく人たちを、祈りにも似た言葉で描く四篇の物語。