2021年12月9日発売
詩人や小説家として活躍し、数々の名作を世に送り出した伊藤整。その小樽高等商業学校時代から、卒業して中学の英語教師になり、東京商科大学(一橋大学の前身)に入学する頃までの、恋愛、同人誌創刊、詩作、若い作家たちとの交流などを生き生きと描写した一冊。小林多喜二、川崎愛(左川ちか)、北川冬彦、梶井基次郎らが実名で登場し、著者の詩にかける意気込みとともに、当時の詩壇の様子が垣間見える好著。
「森男を蒔子に近づける。…二人は現在でも抑制しつつ愛し合っている。その抑制を或る程度外してやれば、二人は近接し、密着し、融けあうだろう。」学生の岩永森男は、父の代から杉原産業の庇護を受けており、当主・康方とは親戚同然の間柄だった。しかし森男は、康方の若い妻・蒔子が気になって仕方がない。蒔子も森男を憎からず思っているらしい。一方で蒔子は、康方の先妻の存在に心を痛めていた。そこで康方は、蒔子を苦しめた自分への罰として、森男と蒔子の接近を甘受しようとする…。屈折し倒錯した三人の心理劇を見事に描き切った、第20回野間文芸賞受賞作品。
ホラーミステリーの名手による、素人探偵「物理波矢多(もとろいはやた)」シリーズ第3作。戦中、満州の建国大学で五族協和の理想を求めた波矢多は、敗戦に接して深い虚無に囚われ、以後は国の復興を土台で支える職を求めようとする。抗夫として働く九州の炭鉱で起きた連続殺人事件を解決した(『黒面の狐』)波矢多は、上京して、建国大学で寝食を共にした級友・熊井新市の元に身を寄せる。新市の父・潮五郎は闇市を仕切る的屋の親分だった。波矢多は、潮五郎の弟分である私市吉之助から奇妙な依頼を受ける。私市が取り仕切る宝生寺の闇市、通称”赤迷路”にいつからか現れるようになり、若い女性のあとを付け回す全身赤っぽい男、”赫衣”の正体を暴いてほしいというのだ。赫衣に出くわした女性たちに話を聞いて回る波矢多だったが、そんな折、私市の経営するパチンコ店で衝撃的な殺人事件が起き、私市に容疑がかかる。事件の真犯人は誰なのか、そして赫衣の真相とは。戦後直後の猥雑な風俗のなかで繰り広げられる、無二の味わいのホラーミステリー。
■小鳩君と小佐内さんが活躍する、シリーズ最新短編! 米澤穂信「羅馬(ローマ)ジェラートの謎」。■第18回ミステリーズ!新人賞優秀賞受賞作、村嶋祝人「百円玉」。■倉知淳、酉島伝法、空木春宵、川野芽生、戸田義長、床品美帆、弥生小夜子、S・チョウイー・ルウ、パトリック・ネスが贈る、読切掲載。■高山羽根子・酉島伝法・倉田タカシがリレー形式で語り合う、『旅書簡集 ゆきあってしあさって』刊行告知掲載。■名翻訳家が語る、書籍や映画にまつわるエッセイ新連載スタート! 若島正「乱視読者の読んだり見たり」ほか。 ■目次■ 【小鳩君と小佐内さんが活躍する、シリーズ最新短編!】 羅馬(ローマ)ジェラートの謎 米澤穂信 解説「羅馬ジェラートの謎」 北原尚彦 【第18回ミステリーズ!新人賞優秀賞】 百円玉 村嶋祝人 【読切】 ウィッチクラフト≠マレフィキウム 空木春宵 さいはての実るころ 川野芽生 一等星かく輝けり 倉知 淳 天地揺らぐ 戸田義長 無常商店街 酉島伝法 曼珠沙華忌 弥生小夜子 431秒後の殺人 床品美帆 沈黙のねうち S・チョウイー・ルウ 勝山海百合 訳 新世界(ニュー・ワールド) パトリック・ネス 樋渡正人 訳 『旅書簡集 ゆきあってしあさって』刊行告知 高山羽根子・酉島伝法・倉田タカシ 【ESSAY】 乱視読者の読んだり見たり 第1回 続いている小説と映画 若島 正 ホームズ書録 全く未知の「ミス・ホームズ捕物帖」 北原尚彦 【COLUMN】 ひみつのおやつ*アイスクリーム 降田 天 私の必需品*ウェットティッシュ 河野 裕 【INTERVIEW 期待の新人】 犬飼ねこそぎ 新名 智 【INTERVIEW 注目の新刊】 『トリカゴ』 辻堂ゆめ 【追悼・松坂 健】 小山 正・新保博久・白井久明・戸川安宣 【BOOKREVIEW】 [文芸全般] 瀧井朝世 [国内ミステリ] 宇田川拓也 [翻訳ミステリ] 村上貴史 [SF] 渡邊利道 [ファンタジイ] 三村美衣
亡き父のあとを受け、森岡恭平が社長を務める森岡人形は、低迷する売上、高齢化した職人の後継ぎ不在、果ては自身の婚活…と、問題が山積。そんなある日、職人たちが足繁く通うパブで働くクリシアというフィリピン人女性が、社屋を訪ねてきた。職人の一人が、酔った勢いで「俺の弟子にしてやる」と、彼女に約束したと言うのだが…。笑って、泣いて。読みどころ満載のハートフル・ストーリー。