2023年1月6日発売
始まりは、感染症研究者の生月碧にかかってきた1本の電話だった。「中国・武漢で未知のウイルス感染症が発生」。その新型コロナウイルスは、世界全体を巻き込む未曾有のパンデミックを引き起こした。碧は連日メディアに出演し、正しい感染症対策を訴え続ける。しかし、政府の対応は後手後手に終始、やがて緊急事態宣言が発出されるも感染者数は爆発的に増えていくー。それでも諦めない碧は、志を同じくする医師の石橋や保健所の鈴木たちとともに、懸命に闘い続ける。この暗闇の先に、きっと「夜明け」があるはずだと信じて。あの感染症禍を経験した、すべての読者の胸を揺さぶる「わたしたち」の物語。
舞台は明治30年代後半。鄙びた甘酒屋を営む弥蔵のところに馴染み客の利吉がやって来て、坂下の鰻屋に徳富蘇峰が居て本屋を探しているという。 なんでも、甘酒屋のある坂を上った先に、古今東西のあらゆる本が揃うと評判の書舗があるらしい。その名は “書楼弔堂(しょろうとむらいどう)”。 思想の変節を非難された徳富蘇峰、探偵小説を書く以前の岡本綺堂、学生時代の竹久夢二……。そこには、迷える者達が、己の一冊を求め“探書”に訪れる。 「扠(さて)、本日はどのようなご本をご所望でしょう——」 日露戦争の足音が聞こえる激動の時代に、本と人との繋がりを見つめなおす。 約6年ぶり、待望のシリーズ第3弾! 【著者プロフィール】 京極夏彦(きょうごく・なつひこ) 日本推理作家協会 第15代代表理事。世界妖怪協会・お化け友の会 代表代行。 1963年北海道小樽市生まれ。94年『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞長編部門、97年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞、2000年第8回桑沢賞、03年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で第130回直木賞、11年『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞、16年 遠野文化賞、19年 埼玉文化賞、22年『遠巷説百物語』で第56回吉川英治文学賞を受賞。
1985年11月、ネブラスカ州ガンスラム。鹿狩りの季節を迎えた田舎町で、女子高生ペギーが失踪した。当初は家出と見られたが、弟マイロは不審に思い、周囲に聞き込みをする。やがてペギーに好意を抱いていた知的障害のある青年ハルが鹿狩りの帰りに血が付いたトラックに乗っていたことから疑惑の目を向けられる。ハルの無実を信じて事件を調べる保護者代わりの中年夫婦、姉の行方を追うマイロ、何かを隠している町の人々とハル…様々な思惑の果てに浮かぶ真実とは?アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。
コネルとマリアンはアイルランド西部の小さな町で育った。だが二人の共通点はそこまで。コネルは学校の人気者だが、マリアンは一匹狼だった。二人がぎこちなくも火花が散るような会話を交わすとき、人生が変わる何かが始まる。お互いに惹かれ合いながら、離れようとするのに結局は離れられないコネルとマリアンの数年にわたる友情と恋愛を会話で魅せる。セックスと主従関係、傷つけたい衝動と傷つけられたい衝動、愛したい気持ちと愛されたい気持ち、人が変わるのがどれほど難しいかを教えてくれる、今までにない珠玉のラブストーリー。
幸せに眠る「洗脳」か、痛みを伴う「覚醒」か。それは、小さなただの花火のはずであった。米海軍横須賀基地に勤める僕に与えられた任務は世界最強の原子力空母でほんの小さな花火を上げることだった。しかし、その真相は…。裏切りと陰謀の渦に翻弄され混乱した僕は僕自身に問う、「君は誰?」と。
半世紀以上を経て娘が探し当てた亡き母の生。二〇一三年のある夏の夜、若くして逝った母の痕跡をたどる旅が始まった。手がかりとなるのは母の名前と残された三枚の写真、二通の書類、そして「わたし」のおぼろげな記憶だけ。忘却に抗い、失われた家族の歴史と、自らのルーツを見いだす瞠目の書。ライプツィヒ書籍見本市賞受賞作。
人里離れたアルプスの一角にある療養所で行われている驚くべき安楽死法を語る「誰も信じないだろう」、全人類の滅亡の可能性をSF的な奇想を用いて描く「十月十二日に何が起こる?」、一匹の野良犬の死がきっかけで中国とアメリカの核戦争が勃発する「ブーメラン」、美人コンテストに担ぎ上げられた障害のある少女の絶望が引き起こすカタストロフィ「チェネレントラ」、夢の中に入りこむ夜の巨獣の退治譚「ババウ」など、老いや死、現代社会の孤独や閉塞感といったテーマを、幻想とアイロニーと諧謔を織り交ぜたシンプルな文体で描く26篇。