2026年1月7日発売
妻を亡くし、息子の夏樹を一人で育てるフリーライターの海老原。そんな彼に雑誌『月刊クリスタル』編集部から、戦後の殺人鬼が起こした事件をもう一度掘り下げて検証してほしいとの依頼が入った。殺人鬼の名前は北川フサ。彼女は戦後の混乱期に5人の男を立て続けに殺し、死刑となっているという。取材を始めた海老原は、フサが赤の他人である少年とともに行動していたことを知る。そして、その当時の少年は、今も存命だった。単なる週刊誌の連載のはずが、いつしか海老原は、フサに導かれるように、事件に没入していく……。
60年に一度の御本尊開帳を3年後に控える唯願寺。住職・密門吽海は盗難の危険性から秘仏の開示を望まぬなか、博物館の学芸員、役場の観光課担当らは、展覧会の目玉として、地域振興として、それぞれに思惑を抱えていた。なぜ吽海は御開帳を避けるのかーー? 限界集落における老僧の日常と本尊をめぐる駆け引きから、現代日本の宗教観、死生観を鮮やかに照らす表題作ほか、第11回林芙美子文学賞受賞作「アナグマ」を収録。
「わしのこと以外、書くことなんてないやろ」 カンザキさんは、悪魔だったのか、それともーー。 大学卒業後、引きこもりを経て、僕が働くことになったのは、離職者続出、いつでも求人中の超絶ブラックの配送会社。 そこで先輩として出会ったのが、誰にでも優しい人格者のミドリカワさんと、「殺すぞぼけ」と人を罵り、蹴りを入れる悪魔のようなカンザキさんだった。 ナンバーワンの配送員になって幹部を目指す!と豪語した同期は、カンザキさんと組んで入社2週間で辞めた。要領の悪い同期はカンザキさんに殴られ続け、走るトラックの助手席から飛び降り、入院してしまう。そしてカンザキさんと組まされた僕は、カッター片手の彼に、荷台の上へ引きずり込まれ「服を脱げ」と命じられてーー。 圧倒的な暴力と不条理の果てに、見えてくる戦慄の光景。 注目の劇作家による初小説!第47回野間文芸新人賞受賞作。 【著者略歴】 ピンク地底人3号(ぴんくちていじんさんごう) 1982年生まれ。同志社大学文学部文化学科美学芸術学専攻卒業。劇作家・演出家。2019年「鎖骨に天使が眠っている」で第24回劇作家協会新人戯曲賞受賞。2022年「華指1832」で第66回岸田國士戯曲賞最終候補。初の小説である本作で第47回野間文芸新人賞受賞。
セロニアス・エリスン(通称モンク)はアフリカ系アメリカ人で、大学で教鞭をとりながら小説家として文学的な作品を書いている。彼の目からみると黒人を売りにしたレベルの低い作品が世間ではベストセラーとなっていた。モンクは三年ぶりにロサンゼルスから実家のワシントンに帰り、医師の姉や高齢の母に会う。姉からは母は物忘れが目立つようになり、金銭的にも困りそうだと告げられる。ロサンゼルスに戻ったモンクは教授昇進が決まったことを知るが、小説は十七社から出版を断られていた。エージェントからは「黒人らしさが足りない」などと言われる。 その後、姉が事件に巻き込まれて再度ワシントンに飛んだモンクは、兄が離婚して多額の借金を抱えていることを知った。モンクは母と家政婦が住む家に引っ越して休職する。エージェントに電話をすると、小説はさらに三人の編集者から断られていた。 モンクは亡き父の書斎に入り、父が使っていた古いタイプライターで小説を書き始める。一気に書き上げたその中編小説は、モンクにとって到底発表できないような低俗極まりない作品だった。しかし、別名スタッグ・リーで書いたその原稿をエージェントが大手出版社に送ったところ絶賛され、多額の契約金で出版されることに。モンクは、やりとりは基本的にエージェント経由とし、決してばれないようにスタッグ・R・リーを演じようと考えるが、作品は非常に大きな注目を集めていき……。 2024年アカデミー賞脚色賞を受賞した映画『アメリカン・フィクション』原作小説。 (ERASURE by Percival Everett) 【著者略歴】 パーシヴァル・エヴェレット Percival Everett 1956年米国ジョージア州生まれ。アフリカ系アメリカ人作家。南カリフォルニア大学卓越教授。『ジェイムズ』(木原善彦訳、河出書房新社)で2024年全米図書賞、2025年ピューリッツァー賞などを受賞。著書にブッカー賞最終候補作『赤く染まる木々』(上野元美訳、早川書房)、ピューリッツァー賞最終候補作『Telephone』ほか。本書を原作とした映画『アメリカン・フィクション』が2023年に公開され、アカデミー賞脚色賞を受賞。 【訳者略歴】 雨海弘美(あまがい・ひろみ) 翻訳者。訳書にミシェル・ザウナー『Hマートで泣きながら』(集英社クリエイティブ)、クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(角川文庫)などがある。
テムズ川で溺死体が発見された。ボーシャン警部の捜査により、30年前、企業年金を横領して姿を消したCEOの事件との関連が浮かび上がる。さらに少女失踪事件も抱える彼は、排他的な上流階級に苛立ちながら聞き込みを続ける。エドガー賞最優秀長篇賞受賞作
鉄の国がもたらす、魔法と遊びの数々-- 仲間(パーティー)はいらない、孤独を楽しむ異世界バカンス第2弾。 <あらすじ> 巻き添えで召喚された異世界を自由に旅することになった、孤独好きな会社員のハイリ。 次なる目的地、鉄と蒸気の国・クバルティア帝国へ向かった彼女は、 猫精霊フィーシスの言葉で他人との距離感について考えながらも、一人旅を楽しんでいた。 魔術師見習いの姉弟に魔術を教えてみたり。遺跡探索で異世界の歴史を学んでみたり。 大樹に築かれた郷で、現地の少女とグライダー大会の優勝を目指してみたり! そんな数々の出会いを経た先、魔王の影響による緊急事態を前に、苦手な協力戦(レイド)に臨むことになってしまい……!? 気ままな異世界バカンス、第2弾!!
かつては“土木の華”と謳われたダム建設が、“時代のあだ花”とまで言われる冬の時代があった。それでもダム建設に命を懸けた、ダム屋と呼ばれる男たちが当時の日本にはいた。そんな男たちの人間模様や人生観を地方色溢れる会話等で描いた長編小説。本書は、著者の長年にわたるダムへの興味と建設工事の観察や専門的事項の学習などを基に、全国の“ダムファン”と言われる人たちに喜んでいただけることを願って執筆された。 はじめに 主要登場人物一覧 序章 第1章 秩父路 第2章 赴任 第3章 基礎掘削 第4章 コンクリート打設 第5章 台風 後記
'地味令嬢、ついに結婚!? <あらすじ> 『わたくしだけが、ずっと過去に取り残されたままなんだわ』 国全体を揺るがせた大騒動から一年以上がたち、ついにコニーとランドルフは結婚式の準備を進めることになった。 だが、それをきっかけにコニーはスカーレットと珍しくケンカをしてしまい、さらには兄に第二子が生まれることを知り、 いつになく動揺を示したスカーレットは、突然コニーの前から完全に姿を消す。 一方アビゲイルに頼まれて事件を調査していたコニーは、大きなトラブルに巻き込まれてしまい!? 「もう一度だけでいい、スカーレットに会いたい……!」 平凡令嬢と希代の悪女が織りなすサスペンス・ファンタジー第六弾!!
家畜に転生して、物理的に詰んでる? なら、魔法で覆せ。 <あらすじ> 「このまま家畜として食われてたまるか!」 心臓麻痺で倒れた女子高生・榊原六花は、次に目覚めるとメス豚に異世界転生していた。クロ子という名を与えられるも、待つのは美味しく食べられるだけの未来……そんな運命なんぞくそくらえ! 前世の知識と機転で絶望的な状況に抗い続ける中、やがて“魔法”という強大な力を手にした彼女は、恩人を守るため小さな体で戦場を駆け、その力は竜すら従え、軍隊さえも凌駕していきーー。 これは理不尽な世界に抗うため、魔法を極めた一匹の子豚が家畜から伝説へと駆け上がる、下剋上異世界転生ファンタジー。
富豪・大河原家の祝宴で突如として起きた二人の死ーー。食卓に広がる静寂、混乱、そして疑惑。現場に呼ばれたのは、薬物動態学と毒物解析のエキスパート・杏奈瑠璃亜教授。南米由来の神経毒「クラーレ」、展示室から消えた“矢毒”、家族全員が口にした料理……複雑に絡む要素の中から、教授は科学の力で「真犯人にしか知り得ない条件」を見抜いていく。 本書は、薬学とミステリーを融合させた全5話の“毒物事件”リサーチペーパー。巧妙なトリックと緊張感あふれる推理が読者を最後まで離さない、化学ミステリーの新たな傑作。
大工、時計師、植木職、指物師、火鉢職 五職五人を描きつつ周五郎は問いかける まっとうな仕事をしているか まっとうに生きているか 人情ものの周五郎が職人気質を描きあげた中短編集 立春なみだ橋 江戸の土圭師 あとのない仮名 むかしも今も ちゃん 【解説】「職人」は社会の重石 新船海三郎
畏敬し合ってきたクマとヒト その関係がいつしか壊れ、ヒトを恐れなくなったクマ、クマを蔑ろにするヒト 対抗・対立を解きほぐし、ともに生きる道をさぐる7編 なめとこ山の熊(宮沢賢治) 密猟者(寒川光太郎) サカモイナクと熊物語(寒川光太郎) 羆風(戸川幸夫) 羆の村(戸川幸夫) 朝次郎(吉村 昭) 幸太郎(吉村 昭) 【解説】 畏敬と対抗のクマと人間 新船海三郎