著者 : レベッカ・ウインターズ
清掃員のカミには、今も深く心に残る忘れられない記憶がある。12歳のとき、父の運転するタクシーから見た、黒髪の美しい若者の姿。王子さまさながらに紋章付きの黒塗りの車に乗り込むところで、彼に釘づけのカミに気づいて、ほほ笑みかけてくれたのだ。その後、父は亡くなり、カミはいま働きながら大学に通っている。でもまさか清掃作業で訪れた邸宅で、黒髪の彼に会うとは思わなかった。邸宅の主は、プロヴァンスの大富豪、ラウル・フォンテスキュー。予想に反して、ラウルもまた彼女のことを覚えていてくれたことで、カミは彼に強く惹かれていくーその胸に、大きな秘密を抱えたまま。クリスマスを迎える頃には、私は余命わずかかもしれない…。
姉を亡くして1年余り、ナタリーは遺された甥を引き取ることにした。だが姉は未婚のまま産んだ幼子の父親が誰か明かしてくれず、ナタリーは甥にいつか教えるためにも、まず父親捜しから始める。わずかな手がかりをもとに、彼女は由緒ある公爵領を訪れた。ここの葡萄園で働く誰かが、甥の父親の可能性があるのだ。臨時の仕事に応募したナタリーは、面接官のドミニクを見て息をのんだ!深みのある黒い瞳と黒髪が、怖いほど甥に似ている。まさか…。でも、この公爵家出身の大富豪には、風貌のよく似た兄といとこがいて、姉が恋におちた男性が3人のうちの誰であってもおかしくなかった。ドミニクでありませんように。ナタリーはいつしか、そう願っていた。
ギリシアのホテルに休暇で滞在していたフランは、裏庭で傷ついてぐったりした小さな女の赤ん坊を見つけた。親が見当たらず、急いで病院に運びこんだあとも、赤ん坊のはかなげな姿に胸がつまり、涙ながらに励まし続けていた。何時間もたち、やがてさまざまな状況が明らかになるー不幸にも赤ん坊の両親は竜巻に巻きこまれて亡くなったという。そして、この子の伯父と名乗る男性が現れ、フランは目をみはった。世界でも指折りの巨大企業のCEO、ニコロス・アンゲリスだったのだ。さらに驚くことに、彼は姪を親身に看護するフランを見て、世話係としてアンゲリス一族の本拠地へ来てほしいと申し出た!
小児病棟でボランティアとして働くファウスタは、病院の食堂で見かけた美しい医師ニコに胸をときめかせた。やがて、言葉を交わすうち、彼も憎からず思ってくれていることを知る。実はファウスタは王家に生まれたが、密かに一般人との結婚を夢見ていた。ニコは人柄もすてき。知れば知るほど、彼を好きになっていく…。孤児として育ったニコは、ずっと実の親を捜しつづけていた。出自もわからずに、王女であるファウスタと結婚など考えられなかった。だがある日、ニコのとんでもない出生の秘密が明らかになるーなんと彼は、最近亡くなったさる国の王の、落とし胤だった!
1年前、ドミニクは夫のもとを飛び出した。熱烈な恋に落ちて結婚したが、夫とは何もかもが違いすぎたのだ。アンドレアスは10歳も年上で、しかもギリシアの大富豪。彼女はといえば、年若いアメリカ人女性で名家出身でもない。ドミニクという妻がいながら、夫は女性によくもてた。ついにはある女性との浮気疑惑が裁判沙汰にまでなってしまい、ドミニクは彼の妻でいられる自信をなくしたのだった。だが何度離婚届を送っても、夫はサインを拒み続けた。そしてとうとう彼はドミニクを追ってきて、二人はある取り決めをした。もう1カ月だけ二人で暮らし、結婚を修復できるか試してみよう、と。
少女の頃、ドネッタは馬術大会でさる王国の皇太子エンリコと出会った。毎年、顔を合わせるうちに親しくなり、16歳のとき初めてキスをした。エンリコが大学進学のため大会に出られなくなると、卒業したら二人で旅に出ようと約束し、交通で心を通わせ合った。ところが彼は国事に忙殺されるようになり、やがて手紙もとだえると、彼の薄情さにドネッタは人知れず懊悩したのだった。5年後、ようやく気持ちに区切りをつけたドネッタのもとに、エンリコの国で開かれる馬術大会への招待状が届く。いったいどんな顔をして会えばいいの…?ドネッタは戸惑ったが、愛しの皇太子とまた会いたくて、彼の待つ、かの国へ飛んだー
24歳のシングルマザー、ステラは1通の手紙を受け取った。差出人はギリシア人大富豪のテオ・パンテラス。生涯ただひとりの恋人にして、ステラの最愛の息子の父親だ。交際を反対されていた二人は、妊娠を機に駆け落ちを決めたが、当日、彼はいつまでたっても約束の場所に現れなかった。おなかの子もろとも私を捨てたくせに、今さら会いたいだなんて。6年間、たったひとりで息子を産み育ててきたステラは、千々に乱れる心を抱えたまま、テオに会う。どんなにつらくても、彼を恨むことはできなかったから…。そして、あの運命の夜の、恐ろしい秘密を知ったのだった。
受話器の向こうから聞こえてきたのは、12年間、レイチェルがかたときも忘れたことのない声だった。「トリスという名前に心あたりがありますか?」トリスー豪華客船の旅で惹かれ合い、愛を誓ったのに、消息が知れなくなった大富豪の御曹司。成就しなかった恋。弄ばれたという現実を受けいれるのにどれほど時間がかかったか。つきまとう過去の痛みは、いまなお胸の奥でくすぶっている…。だがトリスは、レイチェルを捨てたくて捨てたわけではなかった。あのあと事故で彼女の記憶のすべてを失っていたのだ。
21歳のランツァは幼なじみの婚約者を事故で失った。親が決めた結婚から解放され、心の中で密かに安堵していたある日、運命は再び強いられる。亡き許婚の兄ステファノと結婚しろというのだ。しょせん、私は政略結婚の道具。自由に生きる権利はないのね…。病を患う父を喜ばせたい一心で、ランツァはその命令に従った。1年後、結婚式でようやくまともに顔を合わせたステファノは、昔と変わらぬ端整な容貌に大人の魅力をまとい、眩しいくらいだった。そう、ランツァは幼き日から、本当はこの兄のほうが好きだったのだ。だが、人知れず頬を染めるランツァに、ステファノは事務的に告げた。これはあくまでも形だけの結婚で、寝室は別だと。
ケリーは失意を胸に、ギリシアから祖国アメリカに戻った。2年前、大富豪のレアンドロスに嫁いだ日から、いつか別れることになるのはわかっていた。彼の心はずっと、別の女性のものだったのだから…。赤ちゃんができれば変わるかもしれないと思っていたが、ケリーの体に問題があるのか、なかなか授からない。私は彼に愛されることも、ふさわしい妻になることもできないのね…。ついに離婚の申し立てをしたケリーに、予想外の展開が訪れる。彼女のお腹には、レアンドロスとの間にできた双子が宿っていたのだ。喜びに打ち震えながらも、脳裏には夫が愛する女性のことが浮かび…。
「いいえ!先生とベッドを共にしたことなど一度もありません」恩師であるミゲルの離婚調停の証人台に立ったニッキーは、彼との関係を否定しつつも、いまにも胸が張り裂けそうだった。本当にミゲルの恋人だったら、どんなに嬉しかっただろう。いつか彼に抱かれる日を夢見てきたが、妹以上にはなれなかった。ついに離婚は成立し、ミゲルは独りになったものの、つきまとう痛みに耐えきれず、ニッキーは彼のもとを去った。すべてを忘れ、新たな人生を歩むためにーところがある日、突然ミゲルが彼女の前に姿を現した。
オフィス清掃のアルバイトをしている苦学生のサマンサは、ある朝、その企業を経営する実業家パーシアスから呼び出しを受けた。昨夜、社長室から大切なメモが紛失した責任を取れという。サマンサが、紙くずと間違えて掃除してしまったと謝ると、パーシアスはまさかの取り引きを持ちかけてきた。彼の名目上の新婦となって故郷のギリシアについてくるなら、処分は見送り、さらに願いを3つ叶えてやろうというのだ!彼はわたしを使って、復縁を望む元婚約者を追い払いたいだけ。でも、死んだ母さんのためにお墓を建ててあげたい。それに、ギリシア神のように美しい彼のそばにいられるなら…。
継父に虐げられ、両親の死後は施設で育ったケイトが、実は大物実業家の隠し子だと判明。以来、後見人である異母兄のもとで暮らしているが、訳あって事実を公表できず、世間には兄の恋人と思われていた。そんななか、妖しい魅力の大富豪ダミアンと出会う。18歳というケイトの若さに目をつけた彼は、獲物を略奪するのを楽しむように、誘惑の魔手を伸ばすー(C.モーティマー『秘密の味』)。未婚の母アンドレアは、雇い主の息子で今や銀行頭取となったマックスへの愛を忘れたことはない。かつて幼子を育てることを優先し、彼の好意に応えられずにいるうち、彼の興味は別の女性に移ってしまった…。今、雇い主を命の危機から救うため、彼女は勇気を出して、マックスに電話をかけたー(R.ウインターズ『眠りから覚めた恋』)。愛の夢がつまった5話収録のアンソロジー!
ゾーイは短期の仕事で訪れたギリシアで、不慮の事故にあい、偶然居合わせたホテル王のアンドレアスに助けられた。ギリシア神話の神を彷彿させる美しい彼にたちまち惹かれたものの、聞けば、彼は別居中の妻に対し、離婚を申請したばかりだという。十代の頃、ゾーイは魅力的な男性に心を奪われ、つらい仕打ちを受けた。きっと、アンドレアスに恋しても、報われることはないんだわ。それでも、実の親を知らず、人から大切にされたことのない身には、彼のしてくれる親切が、無上の喜びに感じられてしまう。帰国までのタイムリミットも迫るなか、ゾーイは恋心を懸命に封じるが、彼から熱っぽい瞳で、1歳の息子に会ってほしいとアテネへ誘われ…。
サミは旅先のオーストリアで雪崩に巻き込まれた。暗闇の中、リックと名乗る男性と閉じ込められた彼女は、互いに励まし合い、残された命を燃やすようにして抱き合った。その後助け出されたサミは、彼が亡くなったことを知る。そして彼女のおなかには、新しい命が宿っていることも…。1年後。サミは幼い息子を連れ、イタリアのジェノヴァに降り立った。その地にいると聞いていた、リックの家族を訪ねるつもりだった。ところが現れたのは忘れもしない、愛を交わしたリック本人!彼が生きていたなんて…。感涙にむせぶ奇跡の再会も束の間、サミは彼の正体を知って愕然とする。なんですって、あなたが伯爵ー?
半年の仕事のためイタリアに来ているジンジャーは、関係者が集う船上ディナーに招待された。船のオーナーである大富豪ヴィットリオと目が合った瞬間、圧倒的な魅力に心を奪われると同時に、罪悪感に襲われた。病の夫を亡くして2年がたったとはいえ別の男性に惹かれるなんて…。それでも、ともに過ごす時間が増えるにつれ恋心は募っていき、ヴィットリオも彼女を憎からず思ってくれている気がして嬉しかった。ところがある日、ジンジャーの前にヴィットリオの母親が現れ、冷たい態度で接してきたかと思うと、衝撃の言葉を放った!「あなた、息子がもうすぐ結婚することは聞いているの?」
姉の遺児である双子の赤ん坊を育てているギャビーは、ある日、ギリシア有数の大富豪、アンドレアスに面会を申し込んだ。アンドレアスこそが、この赤ん坊たちの父親。亡き姉は彼と一夜の関係を持って身ごもり、ひそかに出産したのだった。現れた逞しい肉体と美貌を持つ、ギリシア神さながらの彼を一目見て、ギャビーはたちまち心奪われてしまう。しかし彼は、ギャビーを手切れ金目当てと決めつけ、冷たくあしらった。落胆した彼女は一人で子供たちを育てる決心をするが、ホテルに戻ると、アンドレアスからメッセージが。命じられるまま迎えのリムジンに乗り、港からクルーザーに乗り込むと…。
信じていた人に裏切られてひどく傷ついた大学講師のアビーは、仕事をしばらく休んで、ヨーロッパで心身を癒やすことにした。歴史的な詩人のリサーチを兼ねたその旅はしかし、彼女の心をかつてなく大きく揺さぶることになる。滞在する予定の風光明媚な地所から迎えに現れた男性ラウルを見て、そのあまりの美しさに、アビーは思わず息をのんだ。ずっと妄想の中で思い描いてきた、まさに理想の男性像そのもの。さらに、ラウルの祖父がアビーの探している詩集を所有しているからと、フランスにある彼の家に招待され、彼女は天にも昇る心地になったーまさか彼が公爵で、しきたりを重んじる家族から冷遇されるとも知らず。
“ママが死んでしまってそばにいないから手術はこわいけど、手術でぼくの頭痛をなくして、パパをまた幸せにしたいです”病を持つ少年の手紙を読んで、慈善財団で働くギャビは胸がつまった。少しでも心の支えになりたい一心で少年を訪ねると、そこは、世界的な富豪一族の当主ルカ・ベレッティーニの家だった。父親であるルカは不在で、ギャビは幼い息子とその祖母に迎えられ、少年がしばしでも病を忘れられるよう楽しい時を過ごした。ただ、この子の手紙のことはルカには秘密と祖母に釘を刺されるーいつも不幸せそうだと息子に思われていることを知れば傷つくから、と。だが翌日、少年と同じ黒髪碧眼の大富豪が、突然ギャビの職場に現れた!