著者 : 山口椿
老朽ビルの一室にあるテレビに映し出されたのは、“血だらけの平台の上で断裁される女たち”だったー。その残虐シーンを観てしまった美沙が、現実と幻想の境界を漂う「オーバーヒート」。暗闇の中、車を走らせるなつみを襲ってきたのはーなつみたちだった。そこから先の地獄絵図を素描した「入れかわり立ちかわり」など、書き下ろし八篇をふくむ、全二十篇を収録した恐怖と幻想の傑作集。
安史の乱は腐敗しきった玄宗皇帝の治世に鉄槌を下したかに見えた。年が明けて、皇族は延秋門から西へ逃亡した。都には今更とも言えるが、規範がなくなり、いやまさに乱れる。都落ちの一行にも敗戦は知れ渡り、血の気の失せた楊国忠宰相の大言壮語に従うものもいない。逆に血気だった衛士たちに両脚をくくられ、騎馬兵に引き回され悲惨な最期を。しかも、かつて後宮に君臨した貴妃の頸さえ。書下ろし残酷小説。
この時代地上最大の都である唐、長安。ここに平康坊と呼ばれ、皇城太廟署の角に接したところに巨大な遊廓があり、一般には北里とよばれた。酒の相手をする胡姫の数は多かったが、妓女は少ない。胡蘭はその妓女で、俊敏で白皙緑眼の絶世の美女、西域の歌舞奏曲を乞われて玄宗宮廷で教示した。気ままな妓女くらしが、性に合ってるのか相変わらず北里にあった。性の絢爛と退廃の腐臭が漂う伝奇巨篇書下し。
「おいしい果物は、禁じられているので、眺めることも、いじることも、なめることも、ましてや、そこに突っこんで、腰を使うこともいけないの…これを味わうと眼からうろこが落ち、この世の厖大が失業してしまうからでしょうね」女は歌うように言う。男と女の営みは深く、とどまるところを知らない。身体の奥から突き上げる感情に身を委ね、悦楽の波に漂う艶やかな世界を繊細に描く。書下し。
笙という名の、獣のような眼をした青年実業家に、少女たちは囲われていた。アスパラガスのように細身のゆうな、ふっくらした脂肪に包まれた毬、そしておそろしい程の美貌をもつ伽耶。この伽耶の蠱惑によって、笙のもとに少女たちは集まってくる。父親のハイテク産業を母体に巨利を得た笙の渇きを癒すものは何なのか。横浜山手通の屋敷には、きょうも輪姦された少女や、両性具有の少女が拾われてくる…。
さらに淫らに欲望する自由を授けられたロベルトは、クロソウスキーの原作をはるかに凌ぐ背徳の世界を生きる。至高のモダン・ポルノグラフィー。ひたすらエロスの側面から人間を凝視する孤高のモダン・ポルノグラフィーの巨匠、山口椿。有数のチェリスト、画家、かつて秘かに三島由紀夫に激賞された枕絵師、緊縛師、刺青師…。あらゆる異端美学を極め、我が国モダン・ポルノグラフィーにおける孤高のアーティザンとして知られる著者の第一作品集。「罌粟のように」「薔薇と夜鴬」併録。