著者 : 西村寿行
警視庁に、奇妙な通報があった。石廊崎で起きた女性ダイバーの溺死は事故ではなく殺人である、と。妻の裏切り以来、刑事としての情熱を失っていた鳴海は、特命を受け、大病院の看護師であった被害者の調査を開始する。医療過誤や製薬会社との癒着、患者の自殺関与。病院内部の黒い疑惑を追うが、取り憑かれたように奔走する鳴海刑事に、強大な圧力がふりかかる。人間の尊厳を問い、病院組織の暗部に切り込む社会派ミステリの傑作。
夜の国道で道路の中央に蹲っている少年がいた。彼は、一緒に暮らしていた老人が死ぬ間際に残した言葉を守り、飼っていた蟹が海岸で産卵しようと移動するのを、命がけで守ろうとしていたのだった。それを知ったドライバーたちは、最後まで少年が見守れるように動いた。しかし、蟹と少年にはさまざまな難敵が襲いかかってくる(「妖獣鬼」)。人間の孤独や哀しみの深奥に迫った、傑作動物小説集。
音のでない呼び笛。人には聞こえないが犬には聞こえるゴールトン・ホイッスル。秋津四郎の娘良子はその超音波を捉える聴覚を持っていた。ある冬の朝、愛犬鉄を連れて散歩に出た良子は交通事故で記憶を失う。同じ日、事故現場近くで男性の他殺死体が発見された。そして数日後、良子は何者かに誘拐されてしまう。鉄とともに探索に旅立つ秋津。父と娘を結ぶのはたった一つの犬笛だけだった…父娘の絆を謳った感動の名作復刊。
赤石岳山麓でペンションを経営する治宗は、夫婦の破局が因で愛育していた仔猪・ゴンタを山に放った。4年後、突如、南アルプス山中に巨猪が出現。それはかつてのゴンタだという。付近に出没し、荒れ狂う手負いのゴンタ。人生に傷ついた治宗は、山狩りからゴンタを救出することに自らの再生を賭けるが…。人間の心に潜む哀しみと、動物への限りない愛を描く巨編。
南アルプスで男女の死体が発見されたが、遺体は死後十日間で白骨化していた。同じ頃、環境庁鳥獣保護課の沖田のもとに中部山岳一帯における鳥獣の異常繁殖を告げる調査報告が相次いだ。沖田は理学博士・右川を訪ね、百二十年に一度というクマザサの結実が、それを餌とする鼠の大量繁殖をもたらしているとの指摘を受ける。関係官庁は対策要請にも耳を貸さず、ついに大惨事が発生する。壮大な長篇サスペンス。
時空間を支配し、全人類の奴隷化を狙う幻覚鬼・醜男。思念力でそれを阻もうとする鯱軍団。キリスト教とイスラム教を相撃させる世界終末戦争が迫る!長編国際冒険ロマン鯱シリーズ、待望の最新刊。
警視庁の敏腕刑事・徳田左近は定年間際に警察庁に引き抜かれ、都道府県警すべてに亘る未解決事件の再捜査を担当している。彼の身近で不気味な動物虐待事件が続いた。庭で餌づけしていた鳩が両足を切断された数日後、榧ノ木山への登山道で、木の幹に鎖で繋がれ放置されたアイリッシュ・セッターの餓死死体を発見した。異常者の愉快犯…血統書を手掛かりに徳田は執拗に犯人に迫る(表題作)。ハードロマン集。
余命半年を宣告され、旅に出た石文高士。だが、偶然手に入れることとなった1枚のMOディスクが、何もなく終わるはずだった石文の人生を変えた。ディスクを求め次々に襲いかかる謎の組織“裏警察”。最後の命を闘いにかけた男の逃走劇が始まった!-平凡な人生を送ってきた男が巻き込まれた“非日常”の恐怖を描く表題作「牡牛の渓」。
3歳のとき、何者かにさらわれた過去をもつ人妻・草木礼子が、再び姿を消した。警察で手に余る事件を請け負う元刑事・鳴神一介は、去来正成を相棒に解決に乗り出した。その道すがら出会った超嗅能力犬・頑鉄の「脳嗅」で図らずも少女売春組織を摘発し、さらにもう一人、行方知れずの音無千尋の捜索依頼を受けるのだが-。3歳まで礼子はだれだったのか?礼子を養女にした黒石文蔵、そして突然現われた女「アキラム」の目的は?心鏡流の杖をふりかざし次々と謎に挑んでいく二人は、40余年前、千尋の祖父が関わった旧陸軍の極秘研究と、今なおつきまとう亡霊の正体に目を瞠った。時の陥穽に滑り落ちた人間の闇を描く長編ハード・サスペンス。