小説むすび | 著者 : 高橋揆一郎

「わたしはね、善ちゃんのお嫁さんになりたかったんだ、これでも」女学校を出たばかりの教師・伸予は、教え子で中学三年生の善吉に恋心を抱いていた。卒業後は交流が途絶え、伸予は許嫁との結婚と死別を経験し、最近は趣味に没頭する日々を送っていたが、教師仲間からの情報で善吉の消息を知り、再会を果たす。中年になってなお、少女のような純粋さを保っている伸予と、どこか冷めた雰囲気を漂わせている善吉。二度目の逢瀬でついにふたりは結ばれるがー。第７９回芥川賞を受賞した表題作のほか、第３７回文學界新人賞受賞作「ぽぷらと軍神」、「清吉の暦」の全三編を収録。

終戦直後の分教場。春うららかな日、校長は都会からやってきた美少女に恋をした…。ユーモアとペーソスに満ちあふれた７つの物語。

昼は北海道庁給仕、夜は夜間中学生。昭和１８年４月、１５歳の真柴仙吉少年の新たな生活が始まった。油絵、詩歌、バイオリン…。次第に芽生えていく芸術への憧れ、そして初恋。だが、悪化の一途をたどる戦況が少年の心を揺さぶる-。札幌を舞台に戦時下の青春を描いた表題作と、終戦後、シベリアで抑留され今なお戦争の傷痕を抱えながら、ひとり山奥の温泉の管理人を続ける老人を描いた「じねんじょ」の２篇を収録。

美しく見事なトマトを作る老人にも秘められた痛ましい人生が。市井の日常にひそむ哀歓を慈愛を込めて描き切る表題作ほか８篇の秀作。

北国旭川に響き渡る祭り太鼓。旅役者一座は、舞台に夢を結ぶ。妻、母、座長として生活苦と闘いながら、旅芝居を守る苛酷な運命に、一途に生きる女の半生を描く、力作長篇。