1996年9月15日発売
徳川二代将軍の娘和子は、史上初めて、武家から朝廷に嫁ぎ、「稀なる福運の姫君」と称えられた。戦国を毅然として生きた女性・お市の方の血を引いて、自らの苦悩は決して語らない女性であったが、宮廷の冷たい仕打ちは、中宮の紅絹の布が知っていた…。涙を秘めた慈愛の国母を描いて、深い感動をよぶ長編小説。
黄土高原の小国曲沃の君主は、器宇壮大で、野心的な称であった。周王室が弱体化し、東方に斉が、南方に楚が力を伸ばし、天下の経営が変化する中で、したたかな称は本国翼を滅ぼして、晋を統一したが…。広漠たる大地にくり広げられる激しい戦闘、消長する幾多の国ぐに。躍動感溢れる長編歴史小説全三巻。
称の孫重耳は、翼攻めに大功をたてた。雄偉な体躯の心穏やかな公子で、狐氏から妻を娶り、その一族の厚い庇護を受けていた。称の死後晋の君主となった詭諸は、絶世の美女驪姫に溺れ、奸計に嵌まって重耳たち公子を殺そうと謀る。逃れ出た重耳と家臣たちの、辛酸の日々。晋の国内は大きく乱れて…。
晋の内乱が鎮静し、重耳の弟夷吾が素早く君主に納まったが、軽佻不徳に人心は集まらず、重耳の帰国が切望された。刺客の魔手を逃れながら、飢えと屈辱の、十九年一万里の流浪の末、ついに重耳は晋を再建し、やがて中国全土の覇者となった。-春秋随一の名君を描く、芸術選奨文部大臣賞受賞の名作。
戦国忍者の誇りを賭けて、徳川幕藩体制に敢然と抵抗した、伊賀・闇の軍団。率いるは柘植重兵衛。服部半蔵の秘蔵弟子で、短槍の名手。半蔵が遺した名槍「伊賀切」の秘密を切札に、大御所家康、本多正純、甲賀忍者群と、虚々実々の戦いを繰り広げる。剣あり恋ありで息もつかせぬ、大型新人の本格忍者小説。
剛剣が唸り小太刀が舞う、武士の世界。我が子の命を賭け真剣で勝負を挑んだ兵法者と、その男を愛してしまった道場主の娘を描いた表題作をはじめとする七編の時代小説短編集。自らも剣の達人である筆者が洞察力鋭く、緊迫した立ち合いの瞬間を描く。ドゥ・マゴ文学賞に輝いた『黄落』に続く佐江作品の傑作。
神田和泉橋の五兵衛店に住む締出し松こと松三は、故あっての長屋暮らしだが贅沢三昧。実は大名家お出入りを許された槍屋「槍丹」の息子である。時は幕末、慶応四年、背中の傷を見こまれて上野彰義隊へ入隊、大砲掛を仰せつけられたまではよかったが…。吉川英治文学新人賞受賞の破天荒な痛快時代小説。
争いは世の常、人の常。江戸の世で、その争いの相談所が恵比寿屋のような公事宿だ。ある日、若者が恵比寿屋を訪れ、兄が知らぬ男に金を返せと訴えられたと相談した。喜兵衛は怪しい臭いを感じとる。事件の真相は如何に?江戸の街に生きる市井の人々を、愛情込めて描く長編歴史小説。第110回直木賞受賞作。
明治政府に、村田新八という男がいた。外国視察から帰ると、政府の重鎮の西郷隆盛と大久保利通が意見の対立から袂を分けていた。西郷を師と仰ぐ新八だが、大久保も知らぬ仲ではない。二人の間で驚き、戸惑い、心は揺れる。国に戻った西郷のもとを新八は尋ねるが…。動乱の時代を生きた傑物を描く長編歴史小説。
苺畑の広がるサン・ピエドロ島の沖合で、漁網に絡まった死体が発見された。漁師の日系アメリカ人=カズオ・ミヤモトが殺人容疑で逮捕された。島の陪審員は根強い人種遍見を抱いている白人たち。法廷内は緊迫するが、第二次大戦で心に深い傷を負った人々が謎の解明に起ちあがる。英米で各賞受賞の裁判小説。
蜀はいま、先帝劉備逝き、豪雄関羽・張飛もいない。しかし軍師孔明は魏の政変を好機と、武力を誇る宿敵を叩き討つべく若き劉禅を奉じ立ち上った。迎えるは大軍率いる名将仲達。二人の知能の限りを尽した壮烈な戦いの火ぶたが切られた。中原に夢を馳せた英雄達の栄光と挫折を雄大なスケールで描く。
大勝か、しからずんば大敗か。蜀の孔明と魏の仲達。自国の存亡を賭け雌雄を決する秋がきた。奇策・鬼謀、虚々実々のかけひきの中、幾度の果敢な死闘を繰り返す。孔明亡き後、蜀の命運を托された若き姜維は遂に最後の決戦に挑む。中国大陸が魏・呉・蜀と三分されて幾歳月、中原に戦い散った英雄達の挽歌。
夢は身銭を切って購うものー東海道吉田宿の一夜、針売りの青年藤吉郎は旅の僧にこういい放った。一升八文の酒を仲立ちに「天下」への道が招き寄せられ、一人の男が歩き始める。平凡な人生を大きく転回させ、歴史に名を成す豊臣秀吉へと変貌させた叡智とは何か。英雄誕生に秘められた成功への発想法を描く。
1907年、一組の夫婦がコーンフレークで有名なあのケロッグ博士経営の療養所を訪れた。博士の健康法を信奉する妻が、胃痛と不眠に悩む夫を連れてきたのだ。オオバコの種子とヒジキの食事、菌の排出のための一日5回の浣腸、電気風呂やら泥風呂、振動ベルトに電気毛布、そして厳格な禁欲生活…。過酷な科学的治療に夫は疲れ果てるーいまアメリカで最も笑える作家が贈る抱腹絶倒本。
世界有数の暗殺者パヴァンの今回の標的ーそれはスペイン沖メノルカ島に暮らす平凡な実業家のチャリスだった。旅行客を装って島に潜入したパヴァンは、偶然チャリス一家と近づきになる。天涯孤独のパヴァンは、そこで生まれてはじめて家族の情愛に触れ、暗殺に疑問を抱きはじめた。だが、彼の逡巡を知った暗殺組織は、新たな暗殺者を送り込み、平和な島は殺戮の場に!暗殺者の孤独な生きざまを鮮烈に描いたサスペンス。
父親の経営する精神病院で働くビリーは、地元の有力者の娘との婚約も決まり、将来に何の不安もないはずだった。ある夏の昼下がり、病院の患者で、17歳の少女ヴァージニアと出会うまでは-。あまりに無防備な彼女のふるまいに翻弄されながらも、しだいに恋に落ちていくビリー。だが、彼女といっしょになる方法はただひとつ、彼女を病院から連れ去り、この町を永遠に出ていくことだった…。
内戦下のエルサルバドルでアメリカの秘密工作を遂行中、エド・パーテインは上官の罠にはめられて、陸軍少佐の地位を失った。そして今、ワイオミング州の銃砲店に勤める彼のもとにその上官の一人が現われ、秘密を洩らすなと忠告して、裏から手をまわして彼の職を奪ってしまった。失職したパーテインは、VOMIT(軍情報部の裏切りによる犠牲者たち)という組織の友人から、新たな雇い主を紹介され、ロサンジェルスへ飛ぶ。雇い主はミリセント・アルトフォードという婦人で、彼女は政治資金調達のエキスパートだった。最近、自宅に保管してあった政治資金百二十万ドルが何者かに盗まれ、犯人を突き止めたいのだが、ボディガードになってほしいという。パーテインは仕事を引き受けた。だが、かつての上官たちが、彼の口を封じるべく、今度は暗殺者を差し向けてきた!クールなタッチで描き出す、欺瞞と殺人の渦巻く危険な世界。絶大な人気を誇りながら、惜しくもこの世を去った巨匠のサスペンス溢れる最後の長篇。
魏徴は黜陟大使・李靖から声をかけられ、秘書監・李淳風を訪れた。李淳風は星辰の図を取り出すと「命を革むる。天が、他者をもって李氏を易えようとしております」と告げたー。ある晩、李靖を尾行していた一団と戦うことになった楊二郎は、彼らが人間以上の能力を持つことを知った。一団の首領は焦子〓@5AA7@といい、世情が混乱期に入るのに乗じて、神農氏の血を引く支族として炎帝の復活を企んでいたのだった。
「おいしい果物は、禁じられているので、眺めることも、いじることも、なめることも、ましてや、そこに突っこんで、腰を使うこともいけないの…これを味わうと眼からうろこが落ち、この世の厖大が失業してしまうからでしょうね」女は歌うように言う。男と女の営みは深く、とどまるところを知らない。身体の奥から突き上げる感情に身を委ね、悦楽の波に漂う艶やかな世界を繊細に描く。書下し。